琥珀色の戯言

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【読書感想】NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業 ☆☆☆☆

NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業

NETFLIX コンテンツ帝国の野望 :GAFAを超える最強IT企業


Kindle版もあります。

NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業―

NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業―

内容(「BOOK」データベースより)
有料会員1億4000万人、コンテンツ投資額、年間1兆4000億円。政治ドラマ「ハウス・オブ・カード」から、アカデミー賞受賞作「ROMA/ローマ」、片づけバラエティ「KonMari」まで、オリジナル作品で驚異的なヒットを放ち続けるネットフリックス。彼らはなぜ動画配信の覇者となりえたのか。テクノロジービッグデータを信じ、過酷な競争文化で急成長を続けるテック企業。その知られざる創業秘話から、大胆な業態転換をへて頂点に上り詰めるまでの壮大な物語を初めて描きだす。


 政治ドラマ『ハウス・オブ・カード』やアカデミー賞を受賞した『ROMA/ローマ』を生み出し、日本ではオリジナルドラマ『全裸監督』が話題になっているネットフリックス。
 この本は、ネットフリックスの創業期を関係者に徹底的に取材して書かれたものです。
 アメリカでは2012年に出版されており、郵送でのDVDレンタルで、既存の店舗型のチェーン店に挑戦し、ネット配信に舵を切っていくまでの時期まで。
 オリジナル作品で映像業界の覇権を握っていくのは「その後」の話になります。
 ちなみに「その後のネットフリックス」についても、日本語版での著者の特別寄稿でフォローはされています(簡単に、ですが)。

 ネットフリックスの創業期にまつわるいくつかの謎はまだ解明できておらず、新たに外部の取材先を開拓する必要もあった。なぜなら、同社の広報チームは会社の方針にあくまでも忠実だったからだ。記者や投資家、消費者を相手にしているとき、会社にとって不都合な問題については徹底して情報統制を敷き、隠し通そうとするのだった。
 ネットフリックスが公式に回答してくれなかった疑問点を三つだけ挙げておこう。第1に、共同創業者の一人であるマーク・ランドルフに何が起きたのか? なぜ彼への言及が一切ないのか? 第2に、『アポロ13』をめぐる創業物語の舞台は当初サンタクルーズ市内のブロックバスター店だったのに、2006年になってすでに閉店しているラホンダ市の家族経営の店に書き換えられたのはなぜか? 第3に、創業チームの一員であるミッチ・ロウがネットフリックスを辞めて、ビデオレンタル自販機「レッドボックス」の新事業を立ち上げた理由は何か? なぜネットフリックスの事業としてやれなかったのか?
 最初、これらの疑問点は些細なことだと思っていた。私が経済メディアの最前列で取材してきた創業物語とそれほど重要なつながりがあるようにも見えなかった。ところが、ある謎が解けると新たな謎がまた出てきて、ウサギの穴に落ちた「不思議の国のアリス」よろしく、ネットフリックスについて知っていると思っていたものがすべてひっくり返されてしまった。
 私が見つけたのは、会社の公式説明よりも格段に奥深く、微妙で、複雑な物語だ。本当のネットフリックス史は長くて曲がりくねった旅路である。そこにはいくつもの大失敗や大当たり、裏切り、苦難がある。分かりやすいサクセスストーリーではなかった。


 日本に住んでいる僕からすると、ネットフリックスって、アップルとかグーグル、アマゾン、フェイスブックに比べて、なんだか突然、巨大な存在として現れたような印象があり、映像を配信しているだけの会社が、なんでこんなにもてはやされるのだろう?と思っていたのです。

 ネットフリックスの創業物語を読んでいると、その二人の創業者、リード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフの関係に、アップルのスティーブ・ジョブズスティーブ・ウォズニアックを思い出しました。
 会社のビジョンを打ち出し、会社に貢献してきた人でも、不要になったと判断すれば「切る」ことも辞さないヘイスティングスと、優れた技術者で、現場で他のスタッフとともに汗を流して問題を解決し、周囲からも愛されていたランドルフ
 そのふたりの「別れ」というか「距離を置いていく過程」は、「IT企業が大きくなっていくプロセスには、こういうことが起こるのが当然なのだろうか?」と考えずにはいられなくなります。
 創業メンバーが「方向性の相違」で離れていくのは、企業だけの話ではないのでしょうけど。

 日本からみると、突然あらわれた巨人のようにみえるネットフリックスなのですが、郵送で届けるオンラインDVDレンタル会社から、ネット配信企業、そして、現在の、さまざまなオリジナルコンテンツを生み出し、映像界を支配する存在になるまで、さまざまな苦難があったのです。

 DVDの郵送レンタル、というビジネスが生まれたのも、それまでのビデオテープから、郵便で安く送れて壊れにくいDVDというメディアが普及したからですし、オンデマンド配信が可能になってのも、インターネットの高速化が急速に広がっていったからなんですよね。

 30年前、まだ店舗でのレンタルビデオも目新しかった時代の僕は、家に居ながら新しい作品をレンタルして観ることができる時代が来るなんて、夢にも思いませんでした。
 
 この本のなかでは、アメリカで最大のレンタルビデオ(DVD)チェーンである、ブロックバスター社とネットフリックスとの熾烈な戦いが描かれています。
 ブロックバスターは全米に多くのチェーン店を持ち、顧客の数も持っているコンテンツ(映像ソフト)も、映画会社との関係も、生まれたばかりのネットフリックスとは、とてつもなく大きな差があったのです。

 ブロックバスターが湯水のように資金をつぎ込んでトータルアクセスを宣伝したことで、アメリカの一般消費者がどっとオンラインレンタルに流れ始めた。オンラインレンタルを初体験する消費者は1千万人の大台に乗せた。ウォール街が想像するよりも市場規模はずっと大きいというヘイスティングスの見立てがようやく裏付けられたのだ。ただし、ネットフリックスにとって不幸だったのは、夏ごろには新規顧客の大半はブロックバスター・オンラインで契約申し込みをしていたということだ。
「オンラインレンタル市場が非常に大きいという仮説は実証されつつあります」とヘイスティングスは4月の第1四半期決算説明会で語った。「新規契約者の大半がネットフリックスを選ぶという仮説が正しいかどうかは何とも言えません。少なくとも現状では」
 第1四半期決算は予想を下回る内容だった。売り上げ、契約者数、利益──。主要な指標が事前予測の下限になったのは、ネットフリックスにとって株式上場後では初めてのことだった。悪いニュースはもっとあった。ヘイスティングスマッカーシーは年末までの年間収益予想を引き下げたうえ、長期目標──毎年の増益率50%と2012年までに契約ベース2000万人──を取り下げなければならなかった。
 唯一の光明はビデオストリーミングだ。ヘイスティングスにハッパをかけられ、テッド・サランドス率いるコンテンツ獲得チームはビバリーヒルズを拠点にフルスピードで品揃えを増やしていた。同時に、再大多数の消費者にストリーミングサービスを届けるために、多様なプラットフォーム──携帯電話、家庭用ゲーム機、DVDプレイヤーなど──にソフトウェアを埋め込んでいった。こうしておけば、消費者はビデオレンタル店・オンラインDVDレンタルからストリーミングへ手軽に切り替えることができるわけだ。「いずれストリーミングが主流になる」との確信から、ヘイスティングスは徐々に大きな賭けに出始めた。これまでネットフリックスが強みとしてきたビジネスモデルが犠牲になるのを承知のうえで、ストリーミングに経営資源を集中投下する体制を築こうとしていた。


 ネットフリックスの躍進に対して、ブロックバスターもさまざまな改革を打ち出し、オンライン郵送レンタルでも安いプランでネットフリックスを追い詰めます。
 しかしながら、もう少しでネットフリックスの息の根を止められる(あるいは共倒れになる)というところで、ブロックバスターは時代の流れを読み間違ってしまうのです。

 2007年7月30日、キーズはCEOとしての新経営戦略を用意して、幹部社員を対象に研修会を開いた。ダラスより140キロほど南下した場所にある高級リゾートホテルを会場にして、「店舗を再び偉大にする」というテーマを掲げた。彼が描いた戦略によれば、店舗はピザや炭酸飲料などの食品・飲料のほか、携帯音楽プレイヤーのiPodやDVDプレイヤーなど家電製品も扱い、総合エンターテインメント施設になる。
 古参の幹部社員はキーズのプレゼンを聞いてあぜんとした。フィールズとアンティオコも同じような戦略を掲げて大やけどしたというのに、どうかしているのではないか……。
 それ以上に驚きだったのは、キーズがデジタルに明るいどころかまったくの「デジタル音痴」であることだった。
「将来、消費者はブロックバスター店にやって来て、店内のキオスクで映画やゲームソフトを自分のUSBメモリにダウンロードするようになるでしょう。USBメモリの代わりにビデオ再生可能なデバイスにダウンロードしても構いません。こうすれば自宅のブロードバンド回線を使う必要もなくなるのです」
 研修会があまりにもショッキングだったことから、エバンジェリストやシェファード、ザインも含め多数の幹部が証券会社に電話し、持ち株の大半──あるいは持ち株のすべて──を売却するよう指示した。もちろんインサイダー取引にならないように事前に定めた方法に従って、である。


 こんな、時計の針を逆戻りさせるようなプレゼンを聞かされたら、そりゃ、絶望するよなあ……
 僕がそう感じるのは、その結果を知っている影響が大きいからなのだとしても。
 ブロックバスターの場合は、既存の店舗をたくさん抱えていたために、それを切り捨てることができなかった、という事情もあるのでしょう。
 ネットフリックスの側からすれば、「ストリーミングで差別化していくしかない戦い」でもあったのです。


 あと、興味深かったのは、ネットフリックスの「映画評価システム」が生まれたきっかけでした。

 映画スタジオ側が1作品当たり15ドルの卸売価格を引き下げないと分かり、ネットフリックスはウェブサイト上で賢くプロモーションするすべを学んだ。最新作や話題作を特集するのをやめて、祝祭日や人気俳優、ニュースに引っ掛けて旧作のプロモーションを展開するのだ。当初は在庫の大半が人気のない旧作で占められていたため、在庫管理のうえではいかに旧作のレンタル収入を増やせるかがカギを握っていた。
 そこでネットフリックスが導入したのが映画評価システムだ。「メンターグループ」をつくり、もともとは選択肢に入っていなかったような作品へ顧客を誘導するのだ。これは専門用語で、「協調フィルタリング」と呼ばれる。例えば、顧客Aと顧客Bの2人が10本の映画を同じように評価したとしよう。その場合、AはBが高く評価する別の映画も好きであり、BはAが高く評価する別の映画も好きであると推論できる。


 「評価システム」には、「顧客サービス」としてだけではなく、「不良在庫になりがちな旧作に注目させ、借りてもらう」という役割があったのです。
 ネットフリックスは、この「評価システム」を進化させることで、他社との差別化をすすめていきました。

 僕は企業の創業物語を読むのが好きなのですが、この『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』は、とくに優れたノンフィクションだと思います。
 これまで「突然あらわれた巨人」のような存在だったネットフリックスの「顔が見えるようになった」気がします。


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