Kindle版もあります。
100円ショップ最大手チェーンを黎明期から支え、出資も受けていた「近畿用品製造」。大量発注を受け、「絶対に潰れることのない会社」と言われていた。タイに自社工場を構え、タイ、ベトナム、インドネシアなどの工場から商品を仕入れるなど業容を拡大していく。
しかし製造コストがジワジワと上昇、同社の経営基盤を蝕んでいた。表向き好調な決算を装いながら、実際には3種類の決算書をつくる粉飾決算に手を染めていた――。
東工大を卒業、DeNAを経て起業した若手社長は、電力自由化の波に乗り、電力の供給をAIで分析するクラウドシステムをつくったと発表し、多額の出資を集めたが、同社が開発したとしていたシステムにはまともなプログラム言語が使われておらず、その実効性が疑われるものだった――。
その他、会社名義のクレジットカードで旅行やブランド品の購入など多額の支出をし、夜の繁華街で豪遊していた社長。
90歳を超えるまで自分が実質創業した会社の経営権を手放そうとせず、趣味の美術品を買いつづけた社長など、「倒産」の背景には様々な人間ドラマがある。60年にわたって「倒産」の現実を取材・分析しつづけてきた日本最高のエキスパート集団が、2021~2024年の最新の倒産事例をレポートする。
僕は企業の「終焉」みたいなものにずっと興味があるのです。
歴史でも「滅亡もの」とか好きなんですよね。我ながら物騒というか、趣味悪いな、とも思いますが。
書店で企業の『倒産』を扱った本を見つけるとつい手に取ってしまいます。
fujipon.hatenadiary.com
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人間に寿命があるように、栄えた国や組織、企業も永続するわけではありません。
長く続くことによって、あるいは、事業を拡大していくことによって、さまざまな「歪み」が生じてくるのです。
この本では国内最大級の企業情報データベースを持つ、民間信用調査会社『帝国データバンク』が取材した2021年6月から2024年9月までに「倒産」した企業の沿革と、「なぜ倒産に至ったのか」が紹介されています。
2024年10月に倒産した船井電機の「最期の一日」のレポートも巻末にあって(詳細は今後あらためて語られるようですが)、働いていた人たちや取材陣の様子などが描かれています。
取材に答えてくれた社員のひとりが、「勤務先の企業が倒産した」ことに対して、動揺しているというより、むしろスッキリした表情に見えた、というのが印象に残りました。
潰れそうな会社というのは、働いている人たちにとっても、期待と不安が入り混じって落ち着かない状況で、どんな形であれ、決着がついたことで不安定な精神状態からひとまず解放されるものなのかもしれませんね。
離婚でも、「周囲は離婚して大変だね」って言うけれど、きつかったのは離婚に至るまでのプロセスで、決まってしまえば、かえってスッキリした、というのを何度も聞きました。
この本の中では、粉飾決算をはじめとして、好調だった事業が、好調であるがゆえに拡大しすぎて質が落ちてしまった企業や、扱っている人気だったはずの製品が時代の波に取り残されて売れなくなってしまった事例などが紹介されています。
この2021年6月から2024年9月は、新型コロナウイルス禍が企業の業績にも大きな影響を与えた時期でもあります。
外食産業は営業の停止や営業時間の短縮を余儀なくされ、影響を受けた代表的な業種ではあるのですが、人と会う機会が減ったためにスーツが売れなくなったり、学校や寮の食堂を経営していた会社が倒産したりしています。
新型コロナウイルスの感染拡大とその影響というのは、僕も実際に体験していなければ「どこのSF小説の話だよ」って笑って聞き流していたような気がします。
事実は小説より奇なり、とは言いますが、長い目でみると、人類は100年に一度くらいは、この感染症によるダメージを受けているんですよね。
国からの補助金によって、破綻寸前だったのが、かえって「延命」された企業なども出てくるのですが、歴史や伝統があるから、とか、安定したニーズがあるから、これまで順調に経営されていたから、なんていうのは、「失敗した事例」を立て続けにみていくと、本当にアテにならないものだなあ、と思い知らされます。
いまの日本では、投資を勧める人やメディアは多いのですが、企業が出している決算に粉飾があるかどうかを外部から判別できる人というのはほとんどいないと思いますし、取引先の銀行ですら騙されていることも少なくないのです。
2021年7月に民事再生法適用を申請した、事務用機器卸Sharp Document 21yosidaの項より。
「怒りを通り越してあきれた」と説明を受けた関係者。社長・弁護士からの説明のなかで明らかとなった経営実態は、予想以上に酷い内容だった。簿外債務は20億円どころでなく「70億円」。そしてその主な使途は「赤字の穴埋め」(31億円)だけでなく、社長への巨額の「貸付金」(33億円)だった。架空リースを繰り返し行っていたため、リース料の支払いが増えていたほか、複合機販売の競合激化で1枚当たりのカウンター料金を値下げせざるを得なかったことで、実際は30億円以上の赤字となっており、大幅な債務超過に陥っていた。
さらに驚くべきは、33億円にも及ぶ社長の貸付金の使い道だ。大半が「遊興費」と「株式投資失敗の穴埋め」だったという。社長は「取引先の接待や従業員の慰労のため」(申立書)として、会社名義のクレジットカードを使用し、数百万円から1000万円以上に及ぶ高価な海外旅行、数千万円の高級ブランド品の購入、証券会社への投資で発生した7億円もの損失の穴埋めに充てていた。なかには、会社や事業とまったく関係ないとみられるネットショップでの物品購入も多数。毎月多額のカード決済を行い、2016年以降の年間の使い込みは3億〜4億円に及んでいたという。また、年間10回程度の従業員の褒賞旅行には代表者に100万円の餞別を会社から渡していた。「これほどの額を消費するのも難しい」「公私混同の極みだ」と憤る関係者。地元の福島県郡山市に2021年6月に完成した社長の新築の自宅は、一度も居住することなく関係者に差し押さえられた。ある同業者によると、「社長の国分町(仙台の歓楽街)での豪遊は有名だった」という。
いくらワンマン社長だったとしても、ここまでのことがやれるのだろうか、会社の私物化に、罪の意識はなかったのだろうか、と疑問ではありますし、なんかもう途中からヤケになっていたのでは、とも思います。
そのうちバレるし、どうせ返せないんだから、遊べるだけ遊んどけ、みたいな。
2026年から年間3〜4億円を使い込み、会社が倒産したのは2021年ですから、こんなことが5年間も続けられるものなのか、と驚いてしまいます。
こういう事例は「仕事はうまくいっていないし、社長は使い込み三昧なら、潰れて当然」なのですが、そんなわかりやすい倒産劇ばかりではないのです。
2023年9月1日に、夏休み明けの学校や寮の食堂がいきなり営業停止となったことで大々的に報じられた、食堂受託運営会社『ホーユー』の項では、こんな話が出てきます。
当初、帝国データバンクの取材に応じた代表は、「給食事業を取り巻く環境は非常に厳しく、自社努力だけではどうすることもできなかった」と語った。帝国データバンクが調査した「学校給食など『給食業界』動向調査(2022年度)」(2023年9月8日発表)では、国内で従業員や学生向けの食堂運営、給食サービスを手がける企業の34%が赤字であることが分かった。前年度と比較して減益となった企業を含めると、業績が悪化した企業は6割を超え、給食事業者の多くが厳しい経営状況を強いられている。さらに、コスト上昇分を「まったく価格転嫁できていない」給食事業者は15%を占め、取引先との価格交渉が難しいと嘆く声も聞かれた。
学校給食法の対象外となる高校などの学食や給食の提供事業では、落札した給食事業者がその予算内で食材調達や調理を行う。ホーユーにおいても、生鮮食品や加工食品など各種食材の価格、光熱費、人件費が、入札時点の想定を大きく上回り、価格改定をスムーズに行うことも難しく、不採算となるケースがさらに増えたと見られる。
2022年以降、国内経済は長年のデフレからインフレに転じており、価格転嫁が進まない企業は収益悪化を余儀なくされている。こうした状況下、入札案件で他業者と比較して極端に低い価格を提示する事業者と契約する場合、契約期間が満了するまで事業を適正に遂行できるのかという判断基準をあらためて検討し、価格のみならず安定供給の観点に、より重きを置いた選定が重要となるだろう。
かつては、日本人旅行者がヨーロッパでブランド物を「爆買い」して白眼視されていたのです。
そんな日本は「ビッグマックが世界一安い国」なんて言われる「物価の安い国」に、いつの間にかなっていました。
「良質のサービスを価格に転嫁するのは当然のこと」だというのは、理屈ではよくわかるのですが、吉野家の牛丼大盛りにサラダと味噌汁をセットにすれば1000円、CoCo壱でカレーにトッピングをしてサラダをつければ1500円、という価格には、「値上がりしたよなあ」と感じずにはいられません。
大企業では賃上げも進んでいるようですが、「物価はどんどん上がっているのに、給料は変わらない」という人も多いはず。
企業の側も「原材料費は上がり、人手不足で人件費も高くなっている。それでも、どんどん『成長』していかないと株主から見放される」という状況になっています。
給食業界も、契約した時点では、こんなにコストが上昇するとは予想していなかったけれど、契約上勝手に値上げはできないし、値上げしたら利用者が減るかもしれない、というジレンマに陥っています。
経営コンサルタントたちは、もっとリストラをして、コストカットも行い、利益の最大化を!
「生産性」を上げないと、これからの時代は、生き残っていけませんよ!
って、言うのでしょうけど、僕自身は、GDPの数字は上がらなかったけれど、「良いサービスが安かったデフレ時代の日本」は、そんなに悪くなかったのではないか、とも考えてしまうのです。
もう、「物価も賃金も上げていく」方向に舵を切ってしまった現在は、そうも言ってはいられない状況であることは、百も承知なのですが。
どんなに良い製品でも、今の時代に昔の「ガラケー」がそんなに売れるわけがないし、子どもたちがプロ野球チームの帽子をかぶらなくなったのも時代の流れです。でも、もうちょっとこのままでやっていけるはず、だと現状維持、あるいは少しの変化にとどめているうちに、決定的に時代に置き去りにされてしまう。その賞味期限切れまでの時間は、どんどん短くなってきています。
企業をうまく続けていくというのはすごく難しいし、企業の内側を見極めたり、将来どうなるかを予想したりすることは、超能力の類のようにも思えてくるのです。