琥珀色の戯言

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【読書感想】非正規介護職員ヨボヨボ日記 ☆☆☆


Kindle版もあります。

当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきます。
56歳から現在まで非正規の介護職を続ける著者による、怒りと悲哀と笑いの記録。
ベストセラー日記シリーズ第7弾!!今回も実話の生々しさ。-介護職は最後の手段-


 著者は56歳で介護の仕事をはじめたそうです。
 家族のあいだでの「老々介護」(超高齢の親を還暦をこえた子どもたちが介護する)は、しばしば話題になるのですが、病院で仕事をしていると、仕事として介護をやっている人にも、中高年者はかなり多いのです。
 介護の仕事は、一般的にそんなに給料が高いとはいえないし、認知症の高齢者にも苛立たずに接しないといけないので、他に仕事を選べる若者は長続きしないことが多い、と著者も述べています。
 介護をされる側も、年齢が近いほうが接しやすい、というのもあるみたいです。

 私が養成スクールで取得した介護職員初任者研修という資格は厚生労働省認定の公的資格であり、以前のヘルパー2級に相当する。
 この業界では、いちばん下っ端に属し、利用者のお世話係程度の仕事だ。キャリアもまだ4年で、未熟な私が介護について述べるのは甚だおこがましいが、ただ底辺から見えてくる景色を私なりにお伝えしたいと思った。
 実際、介護の世界は想像をはるかに超えた、汚く危険で、きつい世界だった。これに「給料が安い」を追加して「介護職の4K」ともいわれている。
 排泄物の処理はもとより食事の介助、入浴や着替えなど身の回りの世話もする。ほとんどの職員がまじめで献身的に従事しているにもかかわらず、利用者に嚙みつかれたり、泥棒呼ばわりされることもある。
 離職率も高い。女性が主体の職場であることから人間関係のもつれからくるストレスや、腰痛などの体調不良で職場を離れる人も多い。
 これだけ次々とマイナス面を掲げることのできる介護の仕事、それなのに私は今も介護ヘルパーを続けている。
 だからといって、この仕事に生きがいを感じ始めた、なんてことはまったくない。私もまもなく高齢者の仲間入りをする。これからの己の行く末を彼らから、良きにつけ悪しきにつけ学ばされている気がする。


 介護には、嚥下能力が低下している人の食事の介助や、入浴介助などのリスクが高い仕事もありますし、利用者からセクハラ的な行為をされても、「相手はお年寄りだから、認知症だから」と責めることもできないのです。
 医師や看護師ほど資格を取るのが難しくはないけれど、給料を含む待遇は厳しいし、利用者やその家族からのクレームを直接受けることもたくさんあります。
 施設によっては、夜勤もあるし、いまは、新型コロナ感染予防にも気を付けなければなりません。

 ちなみに、著者が勤めている施設では、「職員はつねに8名前後だが、1年に3人程度の割合で辞めていったので4年間で12名ほどが離職した」そうです。パワハラ気質の上司がいたのが離職の理由になった人が多そうですが、介護職というのは、真面目すぎるとつらい、という話は僕もけっこう耳にするのです。

 認知症の元警官が一番手に負えない。介護の作業中、「ちょっと署まで来い」と彼に連行されそうになった知人がいる。


 なんて話は、さすがにそれはネタなのでは……と思わずにはいられなかったのですが、まあ、「先生」と呼ばれていたような人ほど、認知症になると扱いが難しい、と言いますしね。
 介護職員のほうも、日常を利用者とともにしているだけに、生真面目すぎるよりも、少しくだけているというか、リラックスして利用者と冗談を言い合えるくらいのほうが長続きするのかもしれません。
 もちろん、安全性の確保に関しては、十分な注意と技術が必要なのですが。
 高齢者の昔話を面白がって聴き続けられる(何度も同じ話を!)というのも、ひとつの「能力」ではありますよね。

 著者は、介護施設の「内実」についても、かなり率直に書いています。

 実際、介護福祉士の友人は気まじめな男で、私が介護の世界に入る前から職場の不満をよく口にしていた。彼から、問題のある上司とか、よくない施設の話をよく聞いた。
 彼が今までいた施設で一番腹が立ったのは、頻繁にナースコールを押す入居者の電源を切るように上司から指示されたことだという。つまり入居者の要求を無視するのだ。
 ベッドから降りる際に鳴る、足もとのセンサーマットの電源をオフにしていた施設もあったという。それ以外にも深夜に徘徊する人に、規定以上の睡眠薬を服用させたり、尿取りパッドを4時間おきに替えないといけないところを、夜勤者が睡眠をとりたいがために、2枚重ねにして手間を省いたりすることもあるらしい。
 朝、利用者にラジオ体操をさせなければいけないのに、「みなさん、最近お疲れみたいで、血圧も高めですから今日は休みましょう」と、無理やり理由をつけて、何日もその作業を怠る施設もあったという。
 ただ親族が面会に来ると、そのような老人ホームに限って職員が信じられないくらいの愛嬌をふりまく。
 中にはろくに食事を温めないで出す老人ホームがあったり、テレビを観ながらオムツを替える職員もいたという。人を人として扱わないのだ。
 友人はそのときのことを施設長や上司に訴えたが、彼らは見て見ぬふりでやりすごし、まったく改善されない職場も多かったという。結局、人手不足がその原因の根底にあるようだった。

 以前、建設の現場仕事をしていたが、「ありがとう」と言われる仕事に就きたくて、と介護職を選んだ人を知っている。彼は勤務初日、入居者から「バカヤロー」「このボケ」と怒鳴られ、ショックを受けていた。


 これを読んで、「ナースコールのスイッチを切るなんて、ひどい話だ」と思った方は多いはずですし、やってはいけないことなんですよね。
 でも、認知症で、夜中に繰り返しナースコールを鳴らし続ける、あるいは夜間に徘徊して、いつ転んで骨折するかわからない、という高齢者を目の当たりにすると、「そこで働いている人たちにも『限界』はあるし、夜勤では人数も少ないからなあ……」と、やるせない気持ちにもなるのです。
 介護業界は慢性的に人手不足ですし、人を減らして「効率化」するほど利益が上がる、という面もあります。
 介護はひとつの「巨大産業」ではあるけれど、高齢者の介護をしながら年を重ね、その後は自分が介護される立場になる、という人生を、人間は求めているのだろうか、なんて考えてしまうこともあるのです。
 医学と食料生産、衛生学の進化で、人は長生きできるようになった。その一方で、若者たちへの介護の負担は、どんどん大きくなっています。
老害」なんて言葉がこんなに気軽に使われるようになった背景には、高齢者に対する社会全体の見方が変わってきていることもあるような気がします。
 僕自身が医療の仕事をはじめた25年前くらいには、「できるだけのことをしてくれ」と延命治療を望む家族が5割くらいはいたと記憶しているのですが、いまは「自然に任せる形で、延命治療はしなくていいです」と言われることがほとんどです(勤めている施設の役割が違う、という面があるとしても)。

 
 著者は、「良い施設と悪い施設の見分け方」をこう述べています。

 ハローワークの求人募集サイト、転職サイトなどで一年中、スタッフ募集をかけている施設はあまりいい話を聞かない。私の友人の介護福祉士の男性も、いろいろな施設に勤務した経験から、まったく同意見だった。
 職員を大切にできない施設、逆に職員から見限られる施設、つまり職員が日常的に辞める老人ホームなどが優良な施設であるはずがなく、入居者を大切にできるはずもないのだ。


 利用者目線ではなくて、そこで働いている人たちの立場からみてみる、というのは、施設選びだけではなく、就職先選びにも有用なやりかただと思います。いまは、ネットでもさまざまな「口コミ」を見ることができる時代ですしね。
 ただ、それもすべてが事実か、発言者がフラットな立場かわからないのは、『食べログ』などと同じではあります。

 利用者と間違えるくらいの高齢者が働いている介護施設というのは、本当にたくさんあるのです。
 現場で働いている人の体験談として、介護という仕事に興味がある人、自分もやってみようという人は、読んでみて損はしないと思います。


 

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