琥珀色の戯言

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【読書感想】勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

【内容紹介】
ABEMA、ネット広告、ゲームなどを軸に、創業以来28期連続増収を達成し、サイバーエージェントを売上高8千億円超の大企業に育て上げた藤田氏。直近ではABEMA事業が開局後、10年ぶりに黒字化を果たした。経営のみならず、麻雀も財界屈指の腕前、競馬では愛馬フォーエバーヤングが世界最高峰のBCクラシックで勝利、サッカーでもオーナーを務めるFC町田ゼルビアはJ1昇格2年目で天皇杯を制覇した。仕事も趣味もとにかく「勝負強い」経営者なのだ。

そんな藤田氏は12月12日にサイバーエージェントの社長を退任。その直前に今最も伝えたい「ビジネスの最強鉄則」をまとめたのが本書だ。


サイバーエージェントの現・取締役会長、藤田晋さん。
藤田さんは1973年生まれで、僕と同世代なのですが、20年くらい前に『渋谷ではたらく社長の告白』という藤田さんの著書を読んで、世の中にはこんなワーカホリックの人がいるのか……と、隙あらばサボろうとしていた自分が悲しくなったのを思い出します。


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藤田さんは、一緒に起業した仲間とともに、インターネット広告の世界で、まさに「寝る間も惜しんで」働いておられたのです。
やっぱり、成功するには、このくらいやらなきゃいけないのか……

サイバーエージェントには、社員もベンチャーっぽい、意識が高い見た目も麗しい人が多くて、なんだかキラキラした企業だなあ、というイメージもあったのです。

サイバーエージェントは、「スマホへの時代のシフト」を藤田さんがうまく見極め、ネット広告企業からはじまり、芸能人ブログを押し出したアメーバブログ(アメブロ)、『ウマ娘』のソーシャルゲームでも成功しました。

赤字続きで金食い虫だと言われ続けてきたAbemaTVも藤田さんの粘り強い取り組みで、2025年の10月~12月期に、はじめての黒字化を達成しています。

そして、この本にもその経緯が書かれているのですが、藤田さんは、社長を退任し、代表取締役会長として、サイバーエージェントの世代交代を自らすすめています。

2000年、26歳のときに東証マザーズ市場に史上最年少で上場を果たし、2014年9月には東証一部(現・東証プライム)に市場変更した大企業を立ち上げ、馬主としてはアメリカのケンタッキーダービーと並ぶ大レース、ブリーダーズカップクラシックをフォーエバーヤングで勝つなんて、世の中には信じられない幸運の星のもとに生まれた人がいるものだな、と競馬ファンの僕は圧倒されてしまいます。
一から東証プライムに上場する企業を立ち上げることと、芝レースが主流の日本の馬には凱旋門賞よりもハードルが高いと思われていたダートのブリーダーズカップクラシックを日本で生まれた馬で勝ったこと、そのどちらかひとつだけでも、すごい偉業なのに!

ただ、この本を読むと、藤田さんは「大企業の創業社長であり、広い人脈があり、『ウマ娘』の成功もあって、競馬にかなりのお金をかけている」ことも事実なので、超ラッキー×2、というよりは、起業家として成功したからこそ、馬主としても有利ではあった、とはいえると思います。

逆に、僕がなんとか馬主になって、そのたった1頭の馬がブリーダーズカップを勝つほうが「偉業」というか「超ラッキー」ではありますよね。

この『勝負眼』というエッセイ集、藤田さんの『週刊文春』の連載を書籍化しています。
文章も、ライターの聞き書きなどではなく、ご本人が書かれているそうです(本当かな?と思われたあなたは、たぶん、ネット社会におけるリテラシーが高い。僕はたぶん本当だと思いました)。

藤田さんは、文章を書くのが好きで、アメーバブログでも日記をずっと書いておられたんですよね。
僕はその頃から藤田さんが書かれたものを定期的に読んでいるのですが、起業から大企業の社長を四半世紀くらい続けてこられて、藤田さん自身の人間として、経営者としての変化も含めて、このエッセイ集は大変興味深いものでした。

「普通に身のまわりのことを書いても自慢だと受け取られてしまう」ともこの本のなかに書かれていますが、大企業のトップというのは、「そういう世界」に生きていて、「一般人の感覚」でいることは至難の業なのでしょう。


藤田さんは、いまの若者、Z世代(1990年代後半から2010年代前半生まれの「デジタルネイティブ世代」)について、こう書かれています。

 起業した最初の頃は、我々はそれこそ狂ったように働いていた。平日は朝9時から深夜2時までを毎日、土日は12時間、週に110時間働いていて、文字通り、寝る時間以外は全て仕事をしていた。ちなみに日高はずっと会社に泊まりっぱなしでソファで寝ていた。当時の自分たちを突き動かしていたのは、絶対成功してやるという気持ちはもちろん、それよりも強かったのは、「投資した人々や採用した人を裏切れない」「周囲に予想された通りに失敗するわけにはいかない」という切迫感だった。日高には「もうあの頃には戻りたくない」という気持ちもあっただろう。
 私が社長を務めるFC町田ゼルビアの黒田剛監督がよく使う言葉に、「悲劇感を揺さぶれ」というのがある。黒田監督は青森山田高校でもゼルビアでもその手腕を発揮し、若いサッカー選手たちを見事にマネジメントしている。彼らがZ世代だとすると、Z世代の若者は、「優勝したら100万円もらえる」と言われても、毎日の練習が苦しくてつらいとそれを乗り越えるほどは頑張れない。しかし、「優勝を逃したらみんなで100万円払わなきゃいけない」となった途端に必死になるという。今の若い世代は、自分のせいで仲間に迷惑を掛けたくないという気持ちはとても強い。一方で、どうしても100万円欲しいというようなハングリー精神は持っていない。
 これはZ世代に限った話ではない。私のような50代も飽食の時代に生まれ育ち、満たされた生活を送ってきて、それ以上の何かを求めるようなモチベーションはたいして高くない。だから、何らかの夢や理想を掲げて頑張るのではなく、失敗したり諦めたりしたら、仲間に迷惑がかかる、今の仕事を失う、恥をかく、などのイメージを喚起するのがマネジメントの正解なのだと考えてきた。それを何と言えばいいのか、長年モヤモヤしていたけど、「悲劇感を揺さぶれ」と表現した黒田監督の言語化する力は流石だ。自分たちがやってきたことが何なのか、しっくりくる。
 他社の経営者から、サイバーエージェントの社員のモチベーションが高いことを羨ましがられることがある。根底に流れるのは私や日高が自分たちに課してきたように、下から火で炙られるような感覚であることは確かだ。それを組織運営の中で創意工夫して盛り込んでいる。


ちなみに、黒田剛監督は、パワーハラスメントを告発され、「法的には無罪」という結果となり、ゼルビアの監督を続けていますが、Jリーグからは言動に対して「けん責処分」を受けています。

「下から火で炙られるような感覚」でモチベーション(?)を上げるというのは、僕には違和感があるのですが、「人を使う側」からすれば、「時代にあった、効果的なマネジメント」という判断なのでしょう。

それに、「自分が他者から抜きん出て成り上がる」という野心よりも、「みんなの和を乱し、自分だけが仲間外れになる」「自分が持っているものを失ってしまう」恐怖のほうが行動につながりやすい、というのは、たしかに「Z世代をはじめとする最近の若者」の傾向として、理解できる気がするのです。
50代半ばの僕は、どちらかというと、「猛烈に働いて成り上がりたい」というよりも「Z世代寄り」で、ちょうど、過渡期にあたる世代なんですよね。

僕などは、太平洋戦争中や戦後に生まれ、高度成長期を支えた「社畜世代」に対して、「そんなふうに仕事や会社にすべてを捧げるのは無理だし、嫌だ」という反感を持ちつつも、Z世代に対しては「そんなぬるい仕事ぶりで、社会人としてやっていけると思っているのか?」と苛立ってしまう。

それにしても、『週刊文春』で、「悲劇感を揺さぶれ」なんて言えてしまうというのは、なんかすごいというか、時代に合わせて勝負してきた藤田さんと、時代とのズレも感じたのです。
それは藤田さんが老害化した、というよりは、成功した人間は、自分の成功体験から逃れられない、ということだし、「組織全体のマネジメントとしては、これで正しい」のかもしれないけれど。

組織の運営というのは難しいですよね。広島カープの新井監督も、就任して初年度のチームが2位になったときには「『選手は家族』というキャッチフレーズで、親しみやすい前向きなモチベーターとして新しい指導者像をつくった」と評価されていたのに、夏場の失速が連続して、チームの成績が落ちていくと「やっぱり監督には厳しさが必要だ」「選手は家族、なんて幻想」とバッシングが浴びせられています。

どんな形であれ、結果を残さなければ、その手段は評価されることはない。
ゼルビアの黒田剛監督も、好成績を残していなければ、クビになっていただけのはず。


また、リモートワークについては、こう書かれています。

 いまなお一番頭を悩ませているのは、評価の麺だ。リモートを導入するのと並行して、評価制度を見直した。リモートでは働いている姿が見えない。だから頑張っているのかどうかの判断は、個々の成果でしかできない。でも、弊社も総合職という名のもとに、みんなが出社し、顔を合わせ、誰に頼まれずともお互いに助け合いながら働いてきた会社で、それが良さでもあった。それが損なわれていいのか。
 サイバーエージェントはインターネット企業とはいえ、そんな古き良き日本的経営をお手本に会社を大きくしてきただけに、新しい時代への適応には、私は難しさも感じている。


同世代で、ずっと同じ時代を生きてきた僕からみると、サイバーエージェントは、キラキラした新しいIT企業に見えているのです。
でも、実際のところ、日本でインターネットが普及しはじめてから四半世紀(25年)が経ち、サイバーエージェントも「IT企業のなかでは老舗」なんですよね。
そして、藤田さんの若い頃からの働きかたをみても、いわゆる体育会系で、他社、他業種のトップとの「人脈」も大事にされている。
そこが、ライブドアとサイバーエージェントの分かれ目になったような気もします。

インターネットやスマートフォンは、若い世代にとっては「社会を変えた特別な技術」ではなく、あたりまえのインフラだとみなされている。
どんなに時代についていこうと努力しつづけても、デジタルネイティブ世代と、同じにはなれない。

ITの変化のスピードを考えると、まだ若い藤田社長が、自ら後進に道を譲っていくことを決断したのは、やっぱり、すごい「勝負眼」だな、と思います。

島田紳助さんの誕生日パーティの話や武豊さんの言葉、サイバーエージェントが「顔採用」と言われることについての私見など、僕には縁がない世界の話が満載で、かなり率直に書かれてもいて、面白い。
読んでいるあいだは僕も異世界転生してプライム上場企業の社長気分になれる本でした。

もちろん、多くの人生を背負うというのは、楽しいことばかりじゃなさそうですけど。


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