琥珀色の戯言

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そして私は一人になった ☆☆☆☆


そして私は一人になった (角川文庫)

そして私は一人になった (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
あれほど結婚したかったのに、離婚してしまった。そして三十二歳にして、初めての一人暮らし。幸せを感じていた時も、心のどこかでずっと望んでいた、一人きりの日々。その一年を地道に綴った日記エッセイ。文庫版にあたって、最新書き下ろし日記「四年後の私」と、秘蔵おもしろエッセイ「インド紀行~ナマステ・クミコ」をあわせて収録。

 実は、僕は先にこの日記の「続編」である『再婚生活』のほうを単行本で読んでしまっていたので、この本に対して、あまり新鮮な気持ちで接することができなかったんですよね。
 「最後には別れること」を予備知識として知ってしまった状態で観る恋愛映画みたいなもので、「でも、この時代のあと山本さんは……」みたいなことが、どうしても頭に浮かんでしまいます。
 それでも、この日記を読んでいると、「30代くらいの女性って、いったいどんなことを考えているのか?」という僕が抱えている謎の一端が明かされるような気がするんですよね。身近なところでいえば、「妻がどんな人間か」はある程度理解しているつもりでも、「日頃、何気ない瞬間に、どんなことを考えながら生きているのか」というのは、正直、よくわからないままなんだよなあ。

 結婚している頃私は、家事なんて一人分も二人分も大して変わらないと思っていた。量的には確かにそうかもしれない。洗濯は洗濯機がやるのだし干す手間だってそんなには変わらない。掃除だって一人で暮らそうと二人で暮らそうと同じ手間だと思っていた。
 けれど、一人になってみて気がついた。一人分と二人分は大違いなんである。
 例えば料理ひとつにしても、いっしょに住んでいる人がいる時は、どうしてもその人が好きなものを作ってしまう。量も足りないと申し訳ないから多めに作る。多めに作るからどうしても余る。余ったものは捨てるのも何だから、翌日私が食べることになるう。そうなると、私はいつも大して好きでないもの(それも余りもの)ばかりを食べることになってしまうのだ。
 ここ何年か、実家でご飯を食べる時は炊きたてのご飯でなく、タッパーウェアの中に余っている昨日のご飯を食べるようにしている。それは、母親がずっとそうしてきたことにこの歳になってやっと気がついたからだ。
 一人で暮らすようになってからは、私は私の食べたいものしか作らなくなった。余ってもそれは好きなものだから翌日食べても虚しくはない。料理する元気がない時は外食すればいい。私は普段の夕食はすごく軽くていいし、三日に一度ぐらいは夕食そのものを抜きたいのに、人と暮らしている時それを押し通すのは難しかった。
 でも結婚していた間に、できなかった料理も一通りできるようになったし、ブラウスやシャツにもきれいにアイロンが掛けられるようになった。
 掃除だって、私以外の人が汚したものを掃除するのは何となく腹がたったけれど、私が汚したものを私がきれいにするには別に腹はたたない。
 すごく利己的みたいだれど、本当のことだから仕方ない。でも、悪いのはいっしょに暮らしていた人ではなくて、一人分も二人分も手間は変わらないなんて恰好つけた私なのだ。押しつけがましく人の好きなものばかり作らず、自分の好きなものを作って食べればよかったのだ。掃除だって洗濯だって、がんがん文句を言ってやってもらえばよかったのだ。
 でも、私は人に文句を言うのが嫌いだ。すごく悲しい気持ちになる。文句なんか言わずに暮らしていきたい。そのためにも、一人はいい。自分には文句を言わないから。自分には厳しくも優しくも自由にできる。
 家事は今は、お風呂上がりのグルーミングと同じになった。自分のために栄養クリームを塗ったり、髪をブローするのが楽しいように、自分が居心地よく清潔に暮らすために働くのはとても楽しい。
 でも、もしかしたら一人暮らし歴が短いからそんなことが言えるのかもしれない。
 ある日、自分のためだけに作る料理に、虚しさを覚える日もくるのかもしれない。

 僕も結婚して思い知ったのですけど、「まったく別々の食生活をおくってきた二人が、毎日同じ食卓を囲む」というのは、いろんなことを発見できる面白さがあるのと同時に、けっこうストレスになる面もあるんですよね。でも、これを読むまで僕は、「自分が感じている食事に関するストレス(味付けとか、一口カツの「一口」の大きさとか)」を意識することはあったけれども、相手が感じている(であろう)ストレスには、全くといっていいほど無頓着だったような気がします。妻だって、いろいろ「ガマンしている」のですよね、たぶん、僕がガマンしている以上に。
 たしかに、山本さんのような家事に対する向き合いかたをすると辛いだろうなあ、と思うけど、その一方で、みんなこうなのだろうか(そんなはずないのでは……)、とも感じます。もちろん、「個人差」っていうのはあるんでしょうけど。

でも、悪いのはいっしょに暮らしていた人ではなくて、一人分も二人分も手間は変わらないなんて恰好つけた私なのだ。押しつけがましく人の好きなものばかり作らず、自分の好きなものを作って食べればよかったのだ。掃除だって洗濯だって、がんがん文句を言ってやってもらえばよかったのだ。
 でも、私は人に文句を言うのが嫌いだ。すごく悲しい気持ちになる。文句なんか言わずに暮らしていきたい。そのためにも、一人はいい。自分には文句を言わないから。自分には厳しくも優しくも自由にできる。

 うーん、僕はどうなんだろうなあ、文句を言うのは嫌だけど、文句すら言えずに暮らすのも淋しいかもしれないし……
 「そんなに大きな事件が起こるわけではない日記」なのですけど、それだけに、すごく興味深くもあるんですよね。


再婚生活

再婚生活

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