- 作者: 前原淳
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2013/11/16
- メディア: 単行本
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内容紹介
たった一度の「CS」初出場。 そこにあった、カープ・ストーリー。
2013年シーズン、16年ぶりのAクラス入りを果たし、
球団史上初めてのクライマックス・シリーズに進出した広島東洋カープ。
その裏には、それまでと違った変化が起きていた。
新井宏昌、石井琢朗新コーチたちの変革。
菊池、丸の躍進。
前田健太ら投手陣たちの強き思い。
廣瀬、赤松、久本らがもたらしたベンチでの献身。
そして指揮官・野村謙二郎の変身……。
オリックス・バファローズから移籍した迎は言う。
「今年のカープは、移籍してきて一番雰囲気が良かった」
それはなぜか。
これは2013年のうちに紹介しておかなければ!ということで。
広島カープを密着取材してきた地元雑誌の編集長による「2013年のカープ」の総集編。
皆様ご存知のように(と思っているのはカープファンだけかもしれませんが……)、今年、16年ぶりのAクラス入りを達成し、初のクライマックス・シリーズに進出した広島カープ。
そして、ファーストステージを見事に突破し、ファイナルステージでは、(カープファンにとっての)宿敵、巨人と激突したのです。
結果は「力の差」を見せつけられる、3連敗だったのですが……
3位とはいえ、シーズンは負け越していますし、「4本柱」のひとりだったO竹投手が巨人にFA移籍してしまったこともあり、2013年シーズンが「輝かしい未来への布石の年」となるのか、「他のチームにケガ人が続出したことに紛れて、なんとか3位に滑り込んだ、まぐれの年」だったのかは、まだわかりません。
長年「期待されては裏切られ」を続けてきたカープファンとしては「期待しすぎない習慣」が身についてしまっているのも事実ですし、やっぱり、4本柱の一人が抜けてしまったのは、あまりにも痛い。
2013年のカープは、「5人目の先発投手」が、最後まで定まりませんでしたし。
ただ、この本を読んでいると、2013年のカープの健闘には、それなりの理由があることが伝わってきます。
「今年のカープは走塁で点を稼ぐ」
シーズン序盤でこういったイメージ付けができたこと。これがもうひとつの種まきであった。
2013年のカープは、最終成績を見ても盗塁数が大きく増えた。
2012年 79盗塁(セ・リーグ2位)
2013年 112盗塁(セ・リーグ1位)
三桁の盗塁数はセ・リーグ唯一。これには盗塁王のタイトルを獲得した丸を始め、走れる選手がレギュラーに定着したという一面もあったが、コラムにも書いた通り、決して足が速いわけではなく2012年はひとつも盗塁を決めていないエルドレッドが3盗塁、プロ通算でひとつしか盗塁をしていない松山竜平が2盗塁を記録したことからも、2013年のカープに、どんな選手であれ「走ること」「次の塁を狙う」という意識が徹底されていたことはわかる。
他球団へのイメージ付けとして、この効果は計り知れなかったであろう。シーズン終盤には盗塁のペースが落ちたものの、すでに序盤戦において「カープはいつ走ってくるかわからない」というイメージを植え付けることに成功。盗塁をしなくても、相手チームに揺さぶりをかけることができていたのだ。
実際にジャイアンツはカープのクリーンアップを(走者なしという)優位な状況で迎えるために、丸と菊池の1、2番コンビを警戒していたと聞く。私も、クライマックス・シリーズの取材現場で、「今年のカープは走ってくるから警戒している」と、ジャイアンツ、タイガース担当の記者に言われたこともあった。
「走る野球」の浸透、監督の采配に一定の方向性がみられるようになったこと、新井打撃コーチによる指導の改革、永川・横山両ベテラン投手の復活、キク(菊池)、マル(丸)コンビの活躍。
この本では、マエケンや野村祐輔、梵、キラといった主軸選手よりも、「脇役」たちのことが丁寧に採り上げられていることに好感が持てました。
「エルドレッドの存在は大きい」。シーズン序盤にそう口にしていたのは、石井内野守備走塁コーチだった。今季カープの機動力野球復権の立役者のひとりである指導者は、俊足ではないエルドレッドの懸命な走塁がチームに好影響を与えていると言う。
「足の速い選手が次の塁を狙う走塁をして当たり前。足が速くない選手が果敢に次の塁を狙うことで他の選手たちも「俺たちもやらなければ」となる。コーチとしてこれほどありがたいことはない。それだけエルドレッドの存在は大きい」。チームの中で意外な貢献を果たしているようだ。
また、エルドレッドは陽気な性格で日本人選手とも積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢も見られる。チームメイトから愛されることも、中軸として必要な素質かもしれない。
エルドレッド選手、カープファンの間では、「当たれば大きいし、大事な場面での決定打も目立っていたけれど、三振が多くて確実性に乏しいし、守備も上手いとはいえないし、来シーズンも必要なのかな……」という意見が多かったんですよね。
来季の去就も未定とされていましたが、結局「現場からの強い希望」ということで、2014年シーズンもカープでプレーしてくれることになりました。
現場からは、長打力だけではなく、こういう役割への評価が高かったのでですね。
この本のなかで紹介されていた赤松選手の話は、読んでいて「そうだったのか……」と、特に印象に残るものでした。
2013年シーズン、赤松のポジションは、守備と走塁のスペシャリストだった。具体的には、ゲーム終盤のここぞという場面での代走や守備固め。これまでも幾度となくカープを救ってきた守備はこのシーズンも健在であったし、俊足を生かした走塁は、経験に裏打ちされ精錬された技術となって形になっていた。特に代走の場面では、走る、走らないの判断が素晴らしく、また相手チームが「走ってくるだろう」と警戒しているなかでも成功させる技術は特筆すべきものがあった。私自身、取材をしていて2013年シーズンの赤松に何度、「いい選手だなあ……」と唸らされたことか。
しかし2013年シーズンを振り返ったとき、赤松がチームにとって欠かせない存在となっていたのが、ベンチ内での貢献であった。スタメンではないため、試合に出ている時間は少ないが、赤松は常に相手投手の癖を探し続けていた。もちろんそれは、自分が代走に出たときの準備という意味合いがあったのだが、それだけに終わらず、そういった癖や分析した結果を試合に出ている選手たちに伝えていたのである。
この赤松に絶大なる信頼を寄せた石井コーチが、
「今年は本当に赤松に助けられた部分が大きい」
と語るように、コーチャーズボックスに立つ石井コーチと、ベンチにいる赤松が常に情報を交換し合い、赤松はそれを試合に出ている選手たちに伝える役割を果たしていたのである。
赤松はまた、伝えるだけでなく、試合に出ている選手たちにも「なぜいま走ったのか」「走らなかったのか」「どうして成功したと思うか」「失敗したと思うか」ということも聞いて回った。印象的だったのは、丸と菊池に対する評価である。
「丸は理由がしっかりしていますね。なぜ走ったのか、なぜアウトになったのか、ということに対して、こういう根拠があったから走ったとか、こういう理由があってアウトになってしまったということが、きちんと説明できる。裏付けがあるんですね。逆に菊池は、まだそこまではいっていないように感じます。そこが変われば走塁が変わるだけじゃなくて、打撃にも必ず好影響がでるはずです。僕も5年前からそうしておけば、すごい数の盗塁を決められていたかもしれません」
現役の選手で、これほどまでにチームメイトの分析を的確に行える選手も珍しいのではないだろうか。
2007年のシーズンオフに移籍してきた赤松選手。
阪神時代の赤松選手は、身体能力は高いのだけれども、ときどきイージーミスがみられ、「野球脳が足りない(頭を使った野球がができていない)」という評価を首脳陣からされていたそうです。
ところが、カープに来て、去年、今年と若手外野手に押しだされ、レギュラーとしての出場が減ってしまったように見える赤松選手は、こういう形で、チームに尽くしてくれていたのです。
試合で目立つ「主軸」ではなくても、こんなふうに、チームを支えてくれるベテランがいる。
以前、横浜ベイスターズについての本のなかに、ある選手の「強いチームには、チームのために『捨て石』になってくれる生え抜きの選手がいるものだ」という言葉がありました。
赤松選手は、阪神から来た「外様選手」しかも、「阪神にFA移籍した選手の人的補償として、突然カープへの移籍を告げられた選手」にもかかわらず、こんなふうに献身的に貢献してくれているのです。
こうやって、「自分が得た情報を共有する」「手の内を明かす」というのは、チームに対しては大きな貢献である一方で、赤松選手自身が試合に出るためには、必ずしもプラスになるとは限りません。
著者がそのことを赤松選手に訊ねてみたところ、「伝えますよ。それ(その考え方)古いですよ」と一笑に付されたそうです。
こういう選手の存在こそが、チームを底上げしてくれたのだろうな、と感謝せずにはいられません。
ある意味「いい人すぎる」のかもしれませんが。
今年の後半の「カープ旋風」は、本当にすごかった。
「カープ女子」って、「カープ」と「女子」は、対義語だと思っていたのに!
日本シリーズ進出をかけた東京ドーム決戦へと駒を進めることができたカープ。その一番の要因は、何であったか。安定感抜群だった先発陣か、決勝ホームラン、同点打と連日の活躍をみせたキラか、それとも走行守で躍動した梵か。私の答えは、そのどれでもない。このシリーズのMVPは間違いなく赤いカープファンであった。15年間、辛酸を舐めつづけてきた彼らの思いが、カープを強くしてくれたのである。事実カープはタイガースに投打だけではなくファンの声援でも勝っていた。2試合ともに、甲子園球場には多くのカープファンが詰めかけていた。2試合連続して観戦した20代の男性ファンは、
「あえて梅田駅からカープのユニホームを着てきました」
と胸を張った。いつもはタイガースファンが占拠する甲子園球場周辺の景色も変わっていた。一番敏感だったのはタイガースファンだった。
「なんやカープファン、シーズン中よりも肩で風切って歩いとんちゃうか。しかも、あれ(ユニホーム)、赤松やないか」
ファンの熱、思いもシーズン中とは逆転していたのかもしれない。「タイガースファンもカープファンに負けとった」とはタイガースファンの弁。
「赤」が「黄」を飲み込んだ2日間。
「このユニホームを着ていたらポジティブでないとやっていけないでしょ」
15年間、戦ってきたのは球団や選手たちだけではなかった。ファンも一緒に戦っていたのだ。
CSファイナルステージでの甲子園の様子には、僕もテレビの画面越しに驚きました。
だって、あの甲子園ですよ。
阪神ファンの「聖地」に、あんなに赤いエリアができて、あんなに大きなカープへの声援が聞こえてくるなんて……
あのときは、強い追い風が、カープに吹いてきていたように感じました。
ファーストステージ終了後には、一部の阪神ファンまでも、カープにエールを贈ってくれたのです。
……それでも、巨人には通用しなかった。
まさかの、屈辱の3連敗。
この本は、O竹投手の移籍が決まる前に脱稿されたものだと思われますので、「その影響」については書かれていません。
「4本柱」の1本が欠けても、2013年にカープが果たした「ブレイクスルー」は、2014年に繋がってくれるのではないかと思います。
ただ、年俸が上がる外国人選手を引き止めるのに目一杯で、ドラフト以外と新外国人の左投手以外に(しかも、外国人枠は、一杯一杯ですからね……)大きな補強がされていない状況で、順調に補強しているセリーグの他チームに太刀打ちできるのか?という不安はあるんですよね。
ましていわんや、CSで見せつけられた巨人との差が縮まるかというと……
マエケンだって、2014年のシーズンオフには、メジャーリーグにポスティング移籍するかもしれないし……
どうしても、ネガティブ思考に傾いてしまうのが、長年のカープファンの悪いところではあるのですが、この本には、2013年の「小さな奇跡」がぎっしり詰まっています。
2013年は、カープファンにとって、記憶に残る一年となりました。
前途は多難ですが、けっして、「まぐれだけ」でCSに出られたわけじゃない。
近い将来、この本を「あの年が、浮上のきっかけだったんだよなあ……」と懐かしく読み返すことができるよう、願ってやみません。