琥珀色の戯言

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【読書感想】その女アレックス ☆☆☆☆


その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)


Kindle版もあります。

その女アレックス (文春文庫)

その女アレックス (文春文庫)

内容紹介
週刊文春2014年ミステリーベスト10」堂々1位! 「ミステリが読みたい! 」「IN POCKET文庫翻訳ミステリー」でも1位。


早くも3冠を達成した一気読み必至の大逆転サスペンス。貴方の予想はすべて裏切られる――。


おまえが死ぬのを見たい――男はそう言って女を監禁した。檻に幽閉され、衰弱した女は死を目前に脱出を図るが……。
ここまでは序章にすぎない。孤独な女の壮絶な秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、慟哭と驚愕へと突進する。


「この作品を読み終えた人々は、プロットについて語る際に他の作品以上に慎重になる。それはネタバレを恐れてというよりも、自分が何かこれまでとは違う読書体験をしたと感じ、その体験の機会を他の読者から奪ってはならないと思うからのようだ」(「訳者あとがき」より)。


未曾有の読書体験を、貴方もぜひ!


 このタイトルをみて、「この女マネックス」、ああ、大江麻理子さん……というようなことを未練がましく思いついたりもしたのです。


 今年の翻訳ミステリのランキングで「三冠」を達成したということもあり、かなり話題になっている作品です。
 僕も『このミス』のランキングをみて、Kindle版を早速購入し、読みました。


 「えっ、ここで決着がついてしまうと、これからどうなるんだ?」と思うような場面が3ヵ所くらいあり、確かに「どんでん返し」に満ちたミステリなんですよね。
 主人公アレックスが監禁されるシーンなどは、「読むのがキツすぎるなこれ……」というリアルさで、「怖いもの」「気持ち悪いもの」が苦手な人は、手を出さないほうが無難かもしれません。


 ただ、これを読んでいて思ったのは、ストーリーの「どんでん返しの技術」においては、われらが日本産ミステリというのは、もう、行きつく所まで行ってしまっているのではないか、ということでした。
 もう、多少のどんでん返しでは、なかなか驚かなくなってしまっている。
 そもそも、「素直に読む」という美しき慣習は失われており、僕などは、つい、「どこが叙述トリックなんだ?」と思いながら読んでしまいます。
 西村京太郎のトラベルミステリでもないかぎり、そういう読み方から逃れることができないんだよなあ。


 しかし、『その女アレックス』が、叙述トリックかどうかについて言及することそのものが、ある種の「ネタバレ」になってしまうわけで、本当にミステリというのは語るのが難しい。


 あえて言えば、「どんでん返し」とか「話の奇抜さ」に期待しすぎると、「なんだこんなものか」って感じになりそうですが、登場するキャラクターの心理描写とか、人物の関係を描くことについては、大変すばらしいというか、なんだかすごく「フランスの香り」がするミステリだな、と。
 散りばめられているエスプリや、ちょっと残酷なユーモアのセンスも含めて。

 なにしろ母は芸術家で、父は薬剤師。カミーユ自身いつも不思議に思っていた。その意味では、父の相手には丸顔でラベンダーの香りがする女性のほうがまだしも自然な感じがする。どこをどうひっくり返してみても、父と母が似合いの夫婦だったとは思えない。それはさておき、埋葬から数週間後に、その女性がわずか数か月で父の財産のかなりの部分を吸い上げていたことがわかり、カミーユは大笑いした。その後二度と会っていないのは残念なかぎりで、あれは並みの女ではない。


 ああ、「後妻業」って、世界共通なんだな、それも、いま日本でこれだけブーム(?)になっている時期にシンクロして、この話が出てくるなんて!
 このカミーユという小柄な警部が、警察側の主人公なのですが(ちなみに、このエピソードはこの小説の本筋とは関係ありません)、この、普通であれば笑えないような事態に対して、「大笑い」しているという描写だけで、なんだか人柄がみえてきますよね。


 ミステリとしては、ちょっと強引に思われるところもあり、また、ちょっとした後味の悪さもみられるのですが、「人間、とくに警察側の人間を描いた作品」としての完成度は、かなり高いのではないでしょうか。
 

 ただ、「丁寧に書かれた良作だけど、これで『三冠』なのか……」とも思ってしまったんだよなあ。
 日本の「とにかく意外などんでん返しをみせる」ことにこだわったミステリに慣れていると、「これで終わり?」と、これでも、「あっさり」に感じてしまう僕は、何かが麻痺してしまっているのかもしれません。

 
 面白い作品であることは間違いないので、予備知識をあまり入れずに読んでみていただければ。

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