琥珀色の戯言

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【映画感想】インサイド・ヘッド2 ☆☆☆☆

少女ライリーを子どもの頃から見守ってきた頭の中の感情・ヨロコビたち。ある日、高校入学という人生の転機を控えたライリーの中に、シンパイ率いる<大人の感情>たちが現れる。 「ライリーの将来のために、あなたたちはもう必要ない」―シンパイたちの暴走により、追放されるヨロコビたち。巻き起こる“感情の嵐”の中で自分らしさを失っていくライリーを救うカギは、広大な世界の奥底に眠る“ある記憶”に隠されていた…。


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2024年映画館での鑑賞13作目。日本語吹き替え版を観ました。
平日の昼下がりの回で、観客は僕も含めて6人でした。

日本での公開日は2024年8月1日なので、1ヶ月以上経ってしまいました。
前作『インサイド・ヘッド』の記憶がなく(観たか観ていないかもはっきりせず)、とりあえず前作を予習してから、と思っているうちに、けっこう時間が過ぎて。

この作品では、主人公の女の子は前作と同じで、「思春期の複雑な感情」をテーマにしていますし、前作の登場人物(登場感情、というべきか)のヨロコビ、カナシミたちに加えて、シンパイ、イイナー、ハズカシ、ダリィという「大人の感情」たちが加わります。

前作未見でも、どんな話かはわかると思いますし、ストーリーよりも映像とキャラクターの面白さを楽しむ作品なので、十分楽しめそうではありますが、感情の種類がけっこう増えてゴチャゴチャしてしまうので、「前作は予習して記憶が新しいうちに観ておくに越したことはない」でしょう。

わざわざ映画館で観なくてもいいか、とも感じたのですが。
内容的にも、マイナスにとらえられがちな感情も含めて、「いろんな感情がある自分や他人を受け入れる」というのは前作と共通したテーマで、そんなことは言われなくてもわかっている感はあるんですよね。
わかっているけど、そのさまざまな(とくにネガティブな)感情ってやつは、厄介なんだよ。
大ベストセラー『嫌われる勇気』で、「過去の記憶や経験にとらわれるな、今がスタートであり、ここからフラットに考えよう」というのを読んで「それができれば苦労しないよ……」と心の中で呟いたのを思い出します。

とはいえ、自己啓発本で読むと「画餅」にしか思えなくても、ピクサーのアニメ映画でヨロコビやカナシミたちが大冒険を繰り広げながら、同様のメッセージを伝えてくると、なんだかとてもしっくりくる、というか、僕もけっこう救われたような気がしました。
そうか、あんな衝撃的な大逆転負けを食らって、投げていた選手に怒りや呪いの言葉を投げつけたくなる、それもまた「自分」であり、そんな自分を受け入れてもいいんだよな、と。
(もちろん、SNSやネット上で「ひどい言葉」を投げつけるのは、自分自身のためにもやめておくべきなのですが)

観ながら僕はなんだか泣けてしょうがなかったし、「ああ、きれいごとばかりじゃなくても良いんだよな、しょうがないんだよな」と、心が洗われた……と思いつつ帰宅したあと、Yahoo!ニュースを見て、また怒りと悲しみに打ち震えてしまったわけですが。
良い映画でも、ポジティブ方面へのヒーリング効果って、基本的には作用時間が短いよね。

「ありきたり」ではあるのだけれど、お説教や自己啓発本では伝わらないことでも、ピクサーの映像と音楽の力があれば、受け入れやすい。
「感情」を喜び、とか悲しみ、とかに分解して解析するのは、いかにもアメリカ的、精神分析的、という気がしますし、日本では、そういう「喜びと嫉妬が入り混じった感情」みたいなのは、自然なものとして歴史的に受け入れられ、言語化されてきました。

僕自身、自分が好きな人、親しい人が活躍すると嬉しい、でも、自分とつい比べてしまって悔しくて切ない気持ちにもなる。
そして、人が活躍している姿ではなく、うまくいっていないときに、強く惹きつけられる、という自分が嫌でした。
他人の失敗を願っているみたいじゃないですか、素直に応援できない人間だし。

でも、人間の感情って、いろんな要素が入り混じっているのが普通なんだよね。
子どもに見せたい映画、だけれど、子どもの時に見たら「ちょっと説教くさいなこれ」と忌避したかもしれないなあ。

前作を配信で予習したのですが、感情軍団のリーダー、ヨロコビを日本語吹き替え版で竹内結子さんが演じていたのです。
竹内さんは、ライリー(主人公の少女)を、常に前向きに導こうとしている「ヨロコビ」を、このときどんな気持ちで演じていたのだろうか、と、その後の竹内さんの人生を知っている僕は、観ながら考えずにはいられませんでした。

人生って、ときに、凄まじく皮肉なものだと思う。

今回、ヨロコビは誰が演じているんだろう、と気になっていたのですが、人気声優の小清水亜美さんでした。
そうか、小清水さんか、「アドリブの名手」だし、人気声優ではあるけれど、この興収が期待される作品では、もっと有名な芸能人がやるのかと思っていたのです。
実際に作品を観て、聴いて、小清水さんが、前作の竹内結子さんの声・演技にものすごく「寄せて」いることに驚いたのです。
竹内さんの「ヨロコビ」というキャラクターを引き継ぐことができる技術を買われての小清水さん。
小清水さんのおかげで、『1』の竹内結子さんの声も「ヨロコビ」も、救われたのではないか、なんだかそう思いました。
プロの声優さんって、すごい。


100分にも満たない、比較的短めの作品でもあり、気軽に観られるのはこの映画の長所だと思います。
そして、渦中にいる子どもたちではなく、「つい子どもの態度に苛立ってしまう大人たち」こそ、この映画の良き観客なのかもしれません。


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