琥珀色の戯言

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【読書感想】グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす ☆☆☆☆☆


Kindle版もあります。

時代の転換点は、すでに静かにやってきている――。

2020年10月7日、かつて全世界の企業でもトップを誇ってきた石油資本エクソン・モービル時価総額が抜き去られた。
エクソンをエネルギー界の王座から追い落とした企業の名はネクステラ。米国でも誰も知らないような、フロリダの地方電力会社だ。だが彼らは風力発電太陽光発電のシェアで全米をひそかに席巻し、この10年でその株価は5倍にもなっていたのだ。

もはや再生エネルギーはファッションではない。20世紀の象徴たる石油を抜き去り、再エネこそが21世紀のビジネスの主戦場となったことが、ここに明らかになったのである。
新時代の再エネの巨人「グリーン・ジャイアント」たちは、すでにカーボンニュートラルの世界での覇権をめぐって激しい競争を繰り広げているのだ。


 地球温暖化を防ぐために、「カーボンニュートラル」の実現に向けて、世界中が動き出しているのです。
 日本でも、環境省がこんなホームページをつくっています。


ondankataisaku.env.go.jp


 僕自身は、「脱炭素」とか「地球温暖化対策」で最初に思い浮かべるのは、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんなんですよね。
 主張していることはわからなくはないけれど、すでに「持っている国」の意識高い系の人たちが、声高に地球の危機を煽っているのではないか、という疑念もあるのです。
 先進国がクリーンエネルギーの使用を開発途上国に押しつけようとしても、経済成長のためには、環境汚染をもたらしても、安いエネルギーを使いたい、という国もたくさんあるはずです。
 そもそも、いま「先進国」になっている国々は、その成長期には、「クリーンじゃないエネルギー」をさんざん使ってきたのだし。

 しかしながら、この本を読んで、世界の趨勢を概観してみると、「地球環境のために、不便で高コストな脱炭素に向かおう!」という理想論だけではなくて、「脱炭素は人類にとっての課題であるとともに、新たなビジネスチャンス」にもなっていることがわかります。

 本書では、新たにエネルギー業界の盟主へと躍り出てきた企業たちを「グリーン・ジャイアント(再生可能エネルギー(再エネ)の巨人)と呼ぶ。いずれも、世界のエネルギーが転換期を迎えることにいち早く気づき、10~20年前から再エネへと一気に舵を切った企業である。そして、今、ようやく時代が追いつき、彼らはすでに世界のエネルギー変革の主役となっている。
 同じような逆転劇は今後、エネルギー業界にとどまらず、あらゆる領域で起きていく。なぜなら、もはや「脱炭素」の動きや各国の政治やイデオロギーの議論ではなく、すでに巨額の「マネー」が動く領域になってしまっているからだ。各国で、CO2排出権に価値をつける検討が始まり、世界のマーケットを動かす機関投資家たちは、気候変動への取り組みが足りない企業から資金を引き上げている。一方で、新たな気候対策イノベーションを促進するメカニズムが動き始める。その勢いは、2021年に入り米バイデン政権が誕生してから、世界中でさらにスピード感を増している。


 日本で生活していると、「再生可能エネルギーって、太陽光パネルとかだよね」というイメージになっているのですが、世界各国は急速に石油・石炭から、風力、太陽光、風力などの再生可能エネルギーの割合を増やそうとしています。
 中国は、あれだけの人口を擁しているし、まだ経済発展のための安いエネルギーとして石油や石炭を燃やしているのだろうと思っていたのですが、実際は、風力発電の技術でも大国になってきています(もちろん、まだまだ石油・石炭もたくさん使われていますが)。
 

 今、世界の視線は、中国の石炭に向けられている。中国のエネルギー供給のうち、実に6割近くを石炭が占めているからだ。あらゆる発電形態で最もCO2排出が大きい石炭火力は、近年世界中で撤退が進んで居るが、中国はむしろ続々と発電所の新設を進める。米シンクタンクによると、2020年だけで中国は3840万キロワット分の石炭火力を新設した。これは同じ年に世界で廃止された石炭火力の1720万キロワットの2倍を軽く超えている。
 今、中国の石炭火力の発電能力は、開発中の案件だけで2億4700万キロワットに上り、容量のみでみるとドイツ一国を十分に賄えるレベルになる。もちろん、この間に古い石炭火力は廃止したり、よりCO2排出の少ない高効率なものにリプレース(建て替え)したりしているが、それでも桁違いなのは間違いない。
 しかし、現状でも石炭抑制の目標は「2021~25年に石炭消費の伸びを厳しく抑制し、2026~30年に徐々に減らす」というものにとどまっている。
 だが、実は中国は一方で「再エネ先進国」という側面もある。
 2020年には、前年の約3倍に当たる7167万キロワット分の風力発電所を新設しており、2019年に世界全体で建設された風力発電の総量(6040万キロワット)を上回る。太陽光発電も4820万キロワット分を新設しており、風力・太陽光の再エネを2019年の2倍新たに投入したことになる。
 要は、経済が急成長を続けているので、石炭火力も再エネも両方が必要なのだ。実際、中国国家能源局によると、中国の発電における2020年末の再エネ比率は29.5%(設備容量では42.4%)と、日本の約17%(2018年度、資源エネルギー庁)を優に上回る。さらには、2030年までに太陽光・風力の発電能力を1200ギガ(12億キロ)ワットまで拡大させる目標で、全体の半分近くを占めるという予測もある。
 しかも、中国は再エネの発電機でも世界を席巻している。
 世界の太陽光発電のメーカー別ランキング(2017年)では、1位のジンコーソーラー(品科能源)を筆頭に、トップ10のうち8社を中国メーカーが占めるほか、風力発電(2019年)でも、トップ2には食い込めていないものの、トップ10のうち5社を占めるほど急速に成長している。さらにいえば、CO2フリーとして再注目を集める原発も、先進国で製造する能力が失われるなか、中国は安定的に建設し続ける数少ない国の一つである。


 東日本大震災福島原発の事故を経験した日本は、原発の稼働を停止し、火力発電の割合を増やさなければならなかった、という事情もあるのです。
 僕個人としては、自然災害が多い日本で、事故が起これば被害が大きすぎる原発を稼働するのは反対なのですが、太陽光発電は、2012年の再エネ特措法のときに向いていそうな土地はほとんど開発済みで、風力も海上に大規模な施設をつくる「洋上風力」が期待されてはいますが、すぐに大規模な発電を期待できる状況ではないようです。
 太陽光発電風力発電の黎明期には、日本の技術は世界に先んじるものであったのですが、いつのまにか、日本は再生可能エネルギーの技術においても、世界に置いていかれることになってしまいました。
 原発にしても、世界各国では「脱炭素」の発電システムとして見直す動きがあり、最新の技術で小型化されたアップデート版の開発が行われているそうです。

 
 日本には日本の事情があるのだ、と主張しても、グローバル経済のなかでは、通用しないことが多いのです。

 企業へ気候対応を要求しているのは、投資家だけではない。もう一つ忘れてはならないのは、製造業における「サプライチェーン」という観点だ。サプライチェーンというのは、自動車や電気製品などの最終製品ができるまでの、原料から、部品、組み立てまでの全工程のことを指す。
 2020年7月、米アップルは、事業全体、製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてを通じて、2030年までにカーボンニュートラルにすることを目指すと発表した。もちろん、これまで見てきたエネルギー会社に比べ、iPhoneやITサービスを展開するAppleは、そもそもの排出量が膨大なわけではない。とはいえ、世界の企業がIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル:Intergovernmental Panel on Climate Change)の評価報告書を基に2050年を目標に掲げるなかで、20年前倒しというのは野心的な目標だ。
「気候変動に対するアクションは、新時代のイノベーションの可能性、雇用創出、持続的な経済成長の礎になり得るのです。カーボンニュートラルに対する当社の取り組みが波及効果をもたらし、さらに大きな変化を生み出すことを期待しています」と、アップルのティム・クックCEOは発表に際し、コメントしている。
 これは、裏を返せば、再エネ100%で部品や素材を生産しないと、iPhoneに使ってもらえなくなるということだ。これはアップルが公表するサプライヤートップ200社のうち、34社を占める日本企業にとっても同じだ(2020年現在、トップ200のうちの日本企業の数は2017年の43社から減り続けている)。
 年間2億台を超える出荷台数を誇るiPhoneに自社の部品を組み込んでもらうことは、電子部品や半導体、電池、パネル、筐体などを供給するサプライヤーにとって生命線である。以前からアップルはこうしたサプライヤー同士を競わせ、低コストで部品を購入することで知られているが、ここに新たに脱炭素という競争軸が入り込んできたということになる。


 買い手にこう言われてしまっては、サプライヤーとしては、アップルと取引をするのを諦めるか、脱炭素に舵を切るしかありません。
 脱炭素、地球温暖化対策のため、というのは「人類にとって良いこと」だという大義名分があるだけに、「下請けイジメ」というような批判も受けにくいのです。
 そして、日本の企業は、「環境ビジネス」において、世界のなかでかなり出遅れてしまっているようです。
 
 「脱炭素」は「これからの世界経済の柱となる新しいビジネス」であり、「お金になるから、環境対策競争が世界中で行われている」のです。「人類にとって良いことかもしれないけれど、コスト面ではマイナスだからな……」というのは、時代遅れなんですね。

 綺麗事ではない「環境ビジネスの現在」が一冊にまとまっている、良質の新書だと思います。


fujipon.hatenadiary.com

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