琥珀色の戯言

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【読書感想】教育激変-2020年、大学入試と学習指導要領大改革のゆくえ ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
2020年度、教育現場には「新学習指導要領」が導入され、新たな「大学入学共通テスト」の実施が始まる。なぜいま教育は大改革を迫られるのか。文科省が目指す「主体的・対話的で深い学び」とはなにか。
自ら教壇に立ち、教育問題を取材し続ける池上氏と、「主体的な学び」を体現する佐藤氏が、日本の教育の問題点と新たな教育改革の意味を解き明かす。巻末には大学入試センターの山本廣基理事長も登場。入試改革の真の狙いを語りつくした。


 池上彰さんと佐藤優さんによる「教育」についての対談。
 僕が大人になって、自分の子どもの学校にかかわるようになり、あらためて感じたのは、学校とか教育の内容って、自分が子どもの頃とは、大きく変わってきているのだなあ、ということでした。
 
 自分も同じように小学校に行っていたから、という理由だけで、30年も昔の自分の記憶を基準に、いまの教育を語ってしまう人が、なんと多いことか。
 もちろん、僕も保護者として「現場」に関わるまで、そうだったのですけど。

 池上さんや佐藤さんは、現在も大学で多くの学生を直接教えており、2020年度から始まる「大学入学共通テスト」に関しても、自ら問題を解いて、評価しています。

池上彰私は、今、東京工業大学で教えているのですが、いろんな意味で深刻だと思うのは、入ってくるのが圧倒的に首都圏の中高一貫私立出身者で、地方の公立校の人間が非常に少ないことなんですよ。状況は、東京大学でも一橋大学でも同じでしょう。


佐藤優学生たちが均質化している。


池上:そうです。彼や彼女たちは、基本的に恵まれた環境に育ち、子どもの頃から塾通いをし、偏差値の高い私立学校で学び、とずっと同種の人間たちばかりのコミュニティで育ってきました。頭はいいし性格も悪くないのだけれど、視野が狭い。難しい方程式をスラスラ解くことはできるのに、今世の中がどうなっているのかというようなことになると、全然知識がないのです。
 かつての東大には、地方の公立高校出身者が多数いて、野武士のような若者たちが梁山泊を形成して、天下国家についても侃々諤々やったわけでしょう。今は、そんな雰囲気はまったくありません。当然、その環境は霞が関まで続いていて、そういう人たちがごぞっとそこに集まるわけですね。これは恐ろしいことです。


 上野千鶴子さんの東大入学式での祝辞が話題になりましたが、同じような環境の子どもたちが有名大学に集まり、社会のエリート層を形成していく、という傾向がどんどん強まっているのです。
 とはいえ、親の立場からすれば、「世の中にいろんな人がいること」を経験させるために、あえて、有名大学への合格率が下がるような選択をする勇気があるか、と言われると、考え込んでしまうのも事実なんですよね。
 そもそも、有名大学に行くことが幸せなのか、という問いはあるけれど、人生の選択肢を広げることにはなるのだろうし。

佐藤:格差の話を続けると、私は前原誠司氏(国民民主党衆議院議員)と話をしていて、とても興味深く感じたことがあるんですよ。民進党時代に、代表選で「All for All」というスローガンを掲げたでしょう。


池上:格差是正の枠を超えて、あらゆる生活者の不安を解消することを目指す政策理念」と説明されています。


佐藤:どちらかというと竹中平蔵氏に近いような自己責任論者だったはずの彼が、どうしてそんなことを言い始めたのか? 話を聞いてみると、前原氏の政策づくりにも関わった慶應義塾大学経済学部の井手英策教授などと語り合っているうちに、はたと気付いたと言うんですね。
 彼は、中学二年生の時に父親が借金を抱えて自殺して、母子家庭の境遇になったわけです。とにかく努力して京都大学法学部に入るのだけれども、学費や生活費を稼がなくてはいけないから、塾の講師から魚市場のバイトからいろんな仕事を掛け持ちして、その結果大学の授業では寝てしまい、ドイツ語の単位を落として四年では卒業できなかった。卒業時は外交官になりたいとも思ったのだけれども、受験勉強できるような経済環境ではなかった。勉強を続けていけるのが、松下政経塾だったんです、と。


池上:かつては結構いた、典型的な苦学生ですね。


佐藤:ただ、自分はそうやって人一倍頑張って、母子家庭の境遇の中から這い上がれたのだけれども、考えてみれば、あれは経済が右肩上がりの構造があるから可能だったのだ、と言うのです。もし今、自分と同じような境遇、能力の中学二年生が京都にいたとして、自分と同じように大学を出られるかといえば、絶対に無理だという結論にしかならない。だから「All for All」の方向に転換しないといけない、と思ったのだそう。


池上:昔は、貧しいとはいえ頑張れば、ギリギリなんとかなる可能性はあった。曲がりなりにも、社会の支援体制もあったわけですね。今、経済的な「負け組」になった家庭から子どもを大学に通わせるのは、国立であっても絶望的に困難です。授業料は上がり、奨学金も「教育ローン」みたいなものだし。


佐藤:そうした家庭は、生活を維持するので、精一杯でしょう。彼は、自分は苦労したけれども、それも蓄積になった。経済格差で取り残される今の子どもたちには、そういう苦労をする可能性さえ残されていないではないか、と言うわけです。


池上:一方で、経済的に恵まれた家庭の子どもたちは、偏差値の高い学校に入るテクニックを身につけて、社会に出ればより多くの収入の得られる仕事に就いていく。教育が、格差を助長し固定化する仕組みとして機能しているかのようです。


 能力がある人たちが「階層の壁」を超えるための手段だったはずの「教育」が、「格差を助長し固定化する仕組みとして機能している」のが現状なのです。
 経済的に右肩上がりで、「それでも、努力すれば報われる」時代を生きてきた人たちが、いまの社会を動かしていて、「生きていくので精一杯」の若者たちを「君たちは努力が足りない」と責めている。


 お二人は、2020年度からはじまる「大学入学共通テスト」(新テスト)について、こんな評価をされています。

佐藤:新テストと現行のセンター試験との大きな違いは、国語と数学に記述式の問題を取り入れることと、英語で今の「聞く、読む」に加えて「話す、書く」力も試す、いわゆる四技能を評価することになる――の二点です。すでに述べたように、大学入試センターは、その改変を反映した新テストの「プレテスト」と、全国の高校二年生を対象に、二回行いました。結論を言えば、全体としてはいい問題だというのが、私の評価です。


池上:私も非常によくできていると感じました。少なくとも国語に関しては、画期的と評してもいいくらい。


佐藤:新テストをそんなふうに評価する人間は、ほとんどいませんでしたよね。だから我々は「異端」。(笑)


池上:最初に私が注目したのは、プレテストに先立って2017年5月に大学入試センターが公表した、国語の記述式のモデル問題です。出題されたのは、ある架空の城下町の「街並み保存地区」に指定されている地域に住むお父さんが、景観保護ガイドラインの住民説明会に出かけた。そこから帰って来たお父さんとお姉さんの会話を聞きながら、妹である「かおるさん」が、ガイドラインの導入について考える――というものです。町が作成したパンフレットも資料として添付されていたりして、従来の試験に比べ、深い読解力、表現力が試される問題になっていました。


 実際にこの問題が紹介されているのですが、ちょっと解いてみようとして、これは「ちょっと解いてみる」のは無理だな、とあきらめてしまいました。
 たしかに、読解力や表現力が必要であり、受験テクニックだけでは通用しない問題になっています。
 正直、これを解かなければならない受験生じゃなくてよかった……と、ホッとしたのも事実です。
 

佐藤:繰り返しになりますが、プレテストの問題は学習指導要領から逸脱していないし、すごくいいアプローチだと思います。にもかかわらず、「文科省や国立の研究所のやることだから、間違っている」と難癖をつけるような風潮が、今回もみられました。


池上:今度の大学入試改革には、特に高校や中学の教育の現場に対するメッセージが込められていることを、しっかり認識すべきだと思うのです。
 戦後日本は、なんとか先進国に追い付こうという国家戦略の下に教育制度も整備して、見事な成果を上げました。しかし、ポストモダンの世の中になり、それを生き抜くために求められる能力は、以前とは違うのだということに、高等教育の関係者もようやく気がついたわけです。それを現場の先生たちに伝えて、教育の中身を変えていきたいのだけれど、なかなかうまく伝わらない。そこで実行したのが、入試問題自体を変えることでした。それを通じて、現場に「今必要な学力、教育とはなんなのか」を、あらためて考えてもらおうとしている。


 どんなテストで評価をしていくか、というのは、「今の大学や社会で求められている『能力』とはどういうものなのか」を示すメッセージでもあるのです。
 僕も子どもの頃から「ペーパーテストで人間の能力を評価できるのか?」と思っていたけれど、作る側にもなってみると、「このくらいは知っていてほしい、できてほしい」のです。
 変えることによる弊害を恐れるあまり、時代に合わないテストをやり続けることは、「教育の未来」にも悪い影響が出てしまう。
 過渡期に「新テスト」を受ける学生たちにとっては、迷惑千万なのでしょうが、やはりこれは「必要なこと」だと思います。


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