Kindle版もあります。
入試問題「倫理」厳選23問で、現代思想に入門する!
現代思想入門は、この一冊でカンペキ! フロイトからフーコー、デリダ、ドゥルーズにアーレント、サンデルまで。センター試験・共通テスト「倫理」厳選23問を入口に、20世紀以降の哲学の流れと見取り図を示す。基本知識のみならず、フェミニズムやケアの倫理など最前線の思想もまるわかり。学びなおしに役立つ、好評『試験に出る哲学』シリーズ第3弾!
いま、「現代思想」がけっこう流行っているというか、「現代思想解説本」が数多く上梓されています。
なかでも、千葉雅也さんの新書『現代思想入門』は、ベストセラーになっているのです。
(この『試験に出る現代思想』にも、『現代思想入門』の話が少し出てきます)
あらためて考えてみると、「現代思想」というカテゴリーに入っている、デリダ、ドゥルーズ、フーコー、などの哲学者たちは、1920年代後半から1930年代に生まれている人が多くて、2022年には「歴史的な評価が、ある程度固まってきた」とも言えそうです。
いま50歳の僕にとっての、子どものころのマルクスみたいなものなのかもしれません。
「現代思想」とは言うけれど、厳密には「現代に繋がってはいるけれど、少し前に大流行した哲学」ではあるのです。
この新書は、受験参考書ではなく、「現代思想」に多くの人に興味を持ってもらうきっかけとして、「こんな問題がセンター試験や共通テストの「倫理」に出ていますよ、と紹介することをきっかけに、現代思想の代表的な哲学者とその思想の要点をまとめたものです。
本書でいう「現代思想」は、20世紀後半の半世紀に脚光を浴びた哲学や思想のことをいいます。具体的には、ドイツのフランクフルト学派、フランスの構造主義やポスト構造主義、アメリカを中心とした現代正義論などのことです。
以前、哲学や思想にくわしい知人に、現代思想が試験に出ていることを話すと、
「えっ、そんなところまで出るの」と驚かれたことがあります。そう、けっこう出るんです(頻出とまではいいませんが)。
試験に出るからには、高校倫理の教科書でも現代思想は取り上げられています。
しかし紙数の都合もあるのか、個々の哲学者や思想家に関する説明は、決して手厚いとはいえません。というより、あまりにも少ない。これでは暗記科目になってしまうのも無理はありません。だってほとんどの教科書で、難解なフーコーやデリダに関する説明が、たったの5〜6行しかないんですから。
フーコーやデリダにかぎらず、現代思想と呼ばれる哲学者や思想家の著作は、いずれも難解です。徒手空拳でいきなり原著にあたったら、沈没することは必至。入門書とされている本だってけっこうな歯応えがあります。
それもそのはずで、現代思想の多くは、過去の哲学・思想のみならず、他分野の学問、文学、芸術、サブカルチャーなど、じつに多彩なジャンルの著作や作品を参照しながら議論を作りあげています。知ってて当たり前のようにカントやヘーゲルの議論が出てくるのですから、参照される哲学者のことを知らなければ、太刀打ちできません。
しかし、ここは声を出していいたいと思いますが、本書で取り上げた現代思想の哲学者や思想家が示した洞察や理論は、私たちの物の見方や生き方を一変させるような力を持っています。さらにいえば、近代的理性の見直し、言語に関する洞察、他者との共生など、彼ら、彼女らが格闘してきた問題群は、21世紀になった現在において古びるどころか、いっそうアクチュアルな課題となっています。だからこそ、わずかながらの紙数であっても高校倫理の教科書で紹介するし、試験にも出るのでしょう。
僕は高校時代、世界史選択で、倫理は授業すら受けていなかったのですが、この本で紹介されているセンター試験や共通テストの「倫理」の問題をみて、「いまの大学入試って、共通テストレベルでも、こんなに難しいのか!」と驚きました。
世界史はけっこう好きで得意でもあったのですが、いま世界史の入試問題をやっても、ひどい点数でしょうから、もっと勉強しておけばよかった、と後悔しているけれど、当時はそれなりに勉強していたのかな。
【問12】価値の対立をめぐるデリダの思想についての説明として最も適当なものを、次の(1)〜(4)のうちから一つ選べ。
(1)様々な価値に優劣を付けて序列化する伝統的な論理は、ものの見方を硬直化させ、価値観の異なる他者を排除してしまう。「愛の跳躍」によって、そうした論理を打ち破り、多様な人々に開かれた社会を目指すべきである。
(2)現代では、本来皆が共有すべき基本的な諸価値への信頼が失われ、様々な他者との共生が困難になっている。そうした状況を克服するために、あらゆる人々に開かれた普遍的な愛を目指す、「愛の跳躍」が必要である。
(3)今日の世界では、他者との共生の基礎となる基本的な諸価値が動揺してしてる。「脱構築」によって、そうした状況を脱し、善と悪、理性と狂気といった二項対立に基づく、安定した価値の序列を改めて構築すべきである。
(4)理性と狂気などの二項対立を立て、一方を他方より優越させる伝統的な論理は、価値に序列を付け、劣るとされた側の価値を貶めてしまう。そうした論理を内側から突き崩し、組み替え続ける「脱構築」が必要である。
(2020年・センター追試験・再試験 第1問・問6)
この問題文、読み飛ばさずに最後まで読み切れたでしょうか?
僕は何度も読み返しながら、「こんな難しい問題を受験生は解いているの?本当に?」と驚愕せずにはいられませんでした。
日常的にこのジャンルをしっかり勉強していれば、そんなに難しい問題ではないのかもしれないけれど、今の僕には、何が書いてあるのかさえわからない。もっとわかりやすい書き方にしてくれよ!とクレームをつけたくなるくらいです。
「脱構築」というキーワードとその定義が頭に入っていれば、テスト問題としては、正解できるのかもしれないけれど。
現代思想って、「こういうもの」ではあるんですよね。
そして、この本は、「受験問題」を題材にしているからこそ、「ちょっと解いてみようかな、答えはどれなのかな」という「とっかかり」になるのです。
正直なところ、この本を読んだだけで、デリダやフーコーがわかるようなものではないと思うのですが(というか、本当に「わかっている」人は、どのくらいいるのだろうか)、現代思想に触れるきっかけにはなりそうですし、少なくとも、「知っておくと、ちょっと興味の範囲が広がる」のは間違いありません。
「ちゃんとした原著からはじめる」には、現代思想はあまりにも難解だし、そもそも、先ほどの引用部にもあったように、現代の哲学・思想って、「かなり莫大な人類の歴史上の哲学や知識の蓄積を前提としている」のです。でも、そんな「土台」から築き上げていくには、現代人はあまりにもやることが多すぎる。
最近、ソクラテスやカント、ハイデガーなどを頑張って読んでいるのですが(とりあえず書かれている文字を目で追っているだけで、理解しているとは言い難いけれど)、名だたる哲学書を読んでみると、僕が若かりし頃、「こんなことで悩んだり、人類の本質を考えたりしているのは、僕だけではないか」と思い込んでいたことは、ほとんど全部、過去の哲学者たちが、ずっと前に考え尽くしてきたことだということを思い知らされるのです。
個々の人間は、決して賢くも立派でもないかもしれないけれど、人類全体がこれまで種として積み上げてきた叡智は本当にすごい。
中高生くらいのときに、ゲーム雑誌とかマンガばかり読まずに、古典的な哲学書とかドストエフスキーをちゃんと読んでおけばよかったなあ、と思うのだけれど、あの頃は、「そんな古いの面白くないし、いまの時代に読んでも関係ないだろ」と「見切った」つもりでいたんですよね。
それにしても、『倫理』って、解答を確認しても「これって、本当にデリダの思想の『正解」なんだろうか」って不安になりますね。
(ちなみに、引用させていただいた【問12】の答えは(4)でした)