琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】志村流 ☆☆☆☆

内容(「BOOK」データベースより)
金・ビジネス・人生の成功哲学。昨日より今日は、いい生活ができるかもしれない。いま、最も気になる男が語る「人生」「仕事」。


 書店で見かけて購入。
 TSUTAYAでは志村さんやドリフのDVDがすべで貸出中で、この本もけっこう売れているみたいでした。
 人は、失ってみないと、大事なものがわからない。もっと志村さんをリアルタイムで観ておけばよかったなあ、などと言っても、もう後の祭りですよね。それでも、志村さんのコントの映像は、きっとこれからの時代にも残っていくでしょうし、僕も「あの志村けんをリアルタイムで観ていたんだぞ!」とか、孫に自慢して、「ふーん、で、志村けんって誰?」とか言われるのかな。

 この本、いつ出たものか確認せずに買ったのですが、読んでみると、志村さんが52歳のとき、2002年に単行本が出て、2005年に文庫化されたものでした。
 20年近く前、働き盛りだった時代の志村さんの考えが書かれていて(たぶんライターさんの聞き書きだろうけど)、面白くもあったのです。
 亡くなられた後になると、どうしても美化されてしまうところもあるだろうから。

 この本では「人生」「お金」「ビジネス」「処世術」の4つの項目について、志村さんが語っています。


 「肝(きも)には金を使え」という文章より。

 物欲とか、物に対する執着心なんてのもないから、贅沢品と言われるようなものにお金を注ぎ込むことはほとんどない。
 ところが、こと仕事に関するものとなると話は別だ。自分が「これは絶対に必要だ」と思ったものは、いくらお金をかけても惜しくない。だから、ビデオやDVDでも、仕事のネタになるかもしれないと思ったら、どんなに大量でお金がかかっても、すべて買ってしまう。オレ自身が面倒くさがり屋で、レンタルビデオで借りたら返さなくちゃいけないから、ついつい買ってしまうという安易な理由もなくはないけれど……
加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』と『志村けんのだいじょうぶだぁ』のゴールデン番組を二本やっていたころは、特に買い込んだ量がすごかった。いいシーンでストップして研究につぐ研究。一晩中どうやってネタにするか、よく考え込んだものだ。そんなだから、ビデオも溜まりに溜まって、いまじゃ三千本近く。収納に困るほどになってしまっている。
 ふだん何気なく聴いている音楽だって、番組を構成するときに、「ここで、あの曲を入れてみよう」なんて、仕事で使えることがたくさんある。だから、CDもジャンルや好き嫌いにこだわらず購入し、家でも車のなかでも、時間があれば出来るだけ何でも聴くようにしている。こうなると、もはやプライベートと仕事の区別がつかなくなる。


 あの「ヒゲダンス」のテーマも、志村さんが選んだというエピソードを最近知りました。この本を読むと、志村さんはとにかく仕事熱心で、コントには妥協しない人だということが伝わってきます。
 遅刻が大嫌いで(仕事をはじめる前に、周りに引け目を感じるのはイヤだから)、相手がどんな人でも、絶対に遅刻しないように心がけている、という話とか、太っ腹なエピソードの数々で知られる志村さんが、「奢られる側の礼儀」について苦言を呈しているところもあって、その人間くささにちょっとホッとしてしまうのです。
「払いの段になって、トイレに行くな!」
 志村けんだって、そう思うよね。


 志村さんは、「あとがきにかえて」で、こんな話をされています。

 困った時は原点に帰る。悩んだ時は原点に帰る。もう一回、もう一回と、何度も見直してみる。これは、オレがいつも考えていることだし、ずーっとやってきたことだ。
 ドリフ時代も、いつもセットをどうするかって時に、このことを実践していた。いろんなアイデアが出てきて、どうしたらいいのか混乱してくると、「じゃ、基本のベンチ一個のセットに戻って考えてみよう」って。途中まで造ってしまうと、どうしても「ここまでやっちゃったから」という気になってしまいがちだ。
 煮詰まったら、いったんチャラにする。フツーの仕事でも、同じじゃないかな? そのほうが結局、早道だし、最後はうまくいくものだ。
 オレは、元来コツコツ型の慎重派で、どこまでやっても安心出来ない性格らしく、最低でも予備のプランを二つ以上持っていないと不安でたまらない。だから、何回でも見直す。リセットして、ゼロに戻してから何度でも見直してみる。すると、本来の目的がハッキリと見えてくるものだ。


 志村さんは、「何事でも準備がいちばん大事」で、「コントもキッチリ作り込んでおきたくて、アドリブは苦手」だと仰っています。
 本当に真面目で心配性。そして、うまくいかないときには「リセットしてゼロから見直してみる」ことを徹底していたのです。
 ここまでやったのに……と言いたいことは僕にもたくさんあるのだけれど、そういう未練を断ちきることが、かえって結果を出すための近道だということは、たくさんあるんですよね。


 あと、志村さんの長年のパートナーだった放送作家の朝長浩之さんが、この本の担当編集者に語った「志村けんについて」が、すごく印象的でした。

──仕事においての志村さんのすごいところ、そして芸人として成功した理由は、どこにあると思いますか?


朝長浩之:核心を突いた質問ですね。ん〜、はっきり言いましょう。コントという仕事における傲慢なまでの我がままさ、これに尽きると思います。そこがすごい。この我がままさは、だれにもマネ出来ません。


──具体的に言うと、どんなことでしょう?


朝長:放送作家がおもしろいと思って書いたものに、志村さんは自分の感覚で「こうしたいからダメなんだ」「だからイヤなんだ」ということをはっきり言う。当然、書き手のほうは不満な顔をします。
 ディレクターが「けっこうおもしろいじゃない」と言っても、志村さんはそのアイデアを切る。自分がおもしろくないと思ったものは非情なまでに切り捨てる。そりゃ、志村さんが「これがおもしろい」と言ったのだって、こっちサイドは「そうかなぁ」と思うものもあります。
 でも、それを決めるのは、あくまでも志村さんなんです。そこのところの基準を志村さんは絶対に曲げない。これがエライと思う。あの人はカリスマだから、僕らに対して「こうしたほうがいい」という意見はないんですよ。


(中略)


──性格的な部分で、志村さんが成功した要因ってあると思いますか?


朝長:志村さんて、性格的に暗いって思われがちですが、本来暗い人間は、あんなこと出来ないですよ。基本的にハシャぐ人ではないんですが、これ、言っていいのかどうかわかりませんが、ちょっと気が小さいところがあるんです。怖がりなんですね、僕が思うには。怖がりだから、あまり目立つスタンドプレイは避けるし、一番になるよりも二番、三番で出過ぎずに、忘れられずに、というところがあると思うんです。
 だから、人づき合いでも、出来る限り、わかっている人と長くつき合いたいというところがあります。ま、言ってみれば、そこが成功の秘訣だと思います。本音を言えば、業界でも、あんな常識人で、まっとーな人はいません。だから生き方もストイックなんですけれどね。


──最後に、プライベートについては、どうですか?


朝長:この場合のプライベートというのは、女性関係ですかぁ? 志村さんの場合、それ以外は仕事も何もかもが一緒、趣味=仕事、仕事=趣味ですからね。
 仕事の合間に、女性と会うってことはないですね。仕事しながら酒飲むってことがないのと同じで。キッチリ終わってから、遊びに行くというタイプです。
 でも、なぜかすぐ同棲してしまうし、会わなきゃいいのに相手の親とかにすぐ会っちゃうし、その点では懲りないというか、学習してないというか……。そこの出費もかなりの額だと思いますが、そっちのほうの金銭感覚は僕にはわかりません。


 結局、志村さんがいちばん好きだったのは、「笑い」をつくる仕事だったのかもしれませんね。そして、ものすごくストイックで真面目で不器用な人だった。

 志村けんという人は、一冊の本で語りつくせる存在ではないけれど、20年近く前の本だけに、かえって、「悲しみで上書きされていない志村けんの言葉」を知ることができるのです。
 こうして家にずっとこもっていると、「笑い」は本当に「救い」になるなあ、と日々実感しています。


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