琥珀色の戯言

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【映画感想】ダンケルク ☆☆☆☆☆

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1940年、連合軍の兵士40万人が、ドイツ軍によってドーバー海峡に面したフランス北端の港町ダンケルクに追い詰められる。ドイツ軍の猛攻にさらされる中、トミー(フィオン・ホワイトヘッド)ら若い兵士たちは生き延びようとさまざまな策を講じる。一方のイギリスでは民間船も動員した救出作戦が始動し、民間船の船長ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)は息子らと一緒にダンケルクへ向かうことを決意。さらにイギリス空軍パイロットのファリア(トム・ハーディ)が、数的に不利ながらも出撃する。


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 2017年の映画館での24作目。19時からの回で、観客は50人くらいでした。
 近場にも上映館はあるのだけれど、ネットでIMAXで観ると迫力が全然違う!という話を読んだので、九州で1ヶ所だけしかないIMAXのスクリーンまで行ってきた(ちなみに、僕が観たのは、キャナルシティ博多の「ユナイテッド・シネマキャナルシティ13」です)。

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 入場したとき、画面の大きさには驚いたけれど、まあ、こんなものなのかな、と思いつつ観はじめたら、最初のシーンの銃撃の音で、思わずビクッと身体が反応してしまいました。
 画面の広さはけっこうすぐ慣れてしまうのだが、効果音がすごい。というかこれ、音だけでも人によってはトラウマになりそうな気もします。
 自分が絶対に死なないという条件で「戦場体験」できるという幸運。これを観たら、大部分の人は、戦場に行きたいなんて、まず思わなくなるはずです。


 ストーリーらしいストーリーもなく、ただ、ダンケルクから脱出しようともがく兵士たちと、彼らを母国に連れて帰ろうとするイギリスの市民たちの姿を丁寧に描いているだけ、の映画なんだよね、これ。ドイツ軍はほとんど出てこないし。
 戦争映画だから、ドイツ軍と連合国(イギリス・フランス)軍との激しい戦闘シーンが満載なのかと思ったら、撤退戦とはいえ、戦闘というよりは、一方的にドイツ軍に攻撃されてばかりです。
 イギリスの兵士たちが、フランスの兵士たちを差別したり、自分が生き延びるために、味方を蹴落としたり、というかなり居心地の悪いシーンもあります。
 なんとかドーバー海峡を渡ってイギリスに戻りたい。ドーバー海峡は泳いで渡る人がいるくらいの距離なのだけれど、それでも、敵に包囲された40万人の兵士にとっては、絶望的な距離なのです。

 それにしても、本当に、「大きなストーリー」がない映画なんですよ。
 氷山に激突したあとの『タイタニック』みたいな状況を延々と見せられて、イギリスの民間船で起こった苦々しい出来事も目の当たりにして、その一方で、飛行機のパイロットが厳しい状況のなかで、味方を救うためにギリギリの出撃をしていく姿もあって。
 個々の登場人物が置かれた状況のなかでやっていることを、個々の視点で描いているだけです。
 ダンケルクが、全体としてどういう状況なのかは、個々の兵士にもわからなかったように、この映画の観客にもわからない。
 先日観た『関ヶ原』では、「石田三成が味方を説得してまわっているうちに、いつのまにか西軍が負けていて、戦場の全体像がわからない」と不満を述べたのですが、この『ダンケルク』は、個々の人々がみた「戦争」を体験する映画なんですよね。
 映画としては、『ゼロ・グラビティ』に近い感じがしました。


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 こうしてみると、僕は、ストーリーや役者の演技よりも、「映画館でしかできない体験」に魅力を感じる傾向があるのだな、と痛感します。
 「アトラクション映画」が好きなんでしょうね。


 最後、なんだか僕も故郷に帰ってきたような気分になって、そして、戦争という状況で発揮される自己犠牲の精神や強靭さ、みたいなものを認めざるをえないような気分にもなって、船酔いしつつも感動の涙を流していました。
 第二次世界大戦では、日本人の精神主義が欧米の経済力や物量に負けた、と僕はずっと思っていたのだけれど、クリストファー・ノーラン監督が描いたこの作品をみると、イギリス人の愛国心や共に戦う、という意志の強さを思い知らされたのです。
 精神力の戦いでも、イギリス人のほうが勝っていたのかもしれない。
 ダンケルクで起こったことは、歴史年表でみる「ダンケルクから40万人の連合軍が撤退」という記述だけでは伝わらない。
 ダンケルクからの撤退は、「イギリス国民の心をひとつにしたターニングポイント」になったのです。
 この映画、「反戦映画」なのかと思いきや、観終えてみると「それでも戦った人たちへの讃歌」のようにも感じられるんですよ。
 ノーラン監督の出世作となった『ダークナイト』で、ジョーカーが囚人の乗った船と善良な市民の乗った船の両方に爆弾を仕掛け、選択を迫るシーンを思い出しました。
 お互いの船の起爆装置を渡され、相手の船を爆破すれば助けてやろう、と言われた乗客たちの間には、さまざまな思惑が入り乱れるのですが、結局、彼らは「相手の船を爆破しない」のです。
 ノーラン監督は、戦いを全否定する人ではありません。
 人間には戦わなければならない状況もあるし、そこで邪悪な面をみせることもあるけれど、最後は人間の「善性」が勝つはずだ、という祈りを僕は感じました。


 この映画には、「戦場におけるドロドロ、グチャグチャで救いようのない個人の体験と、それが英雄伝として語られるときの美しさの乖離」も描かれているのです。
 「すばらしい撤退」ではあったけれど、そのなかには、生き残りたい人々による泥沼の争いやズルや犠牲になった人たちの「救いようもない話」が埋もれています。
 それでも、新聞には「奇跡的な、勝利とも呼ぶべき撤退」なんて書かれてしまう。いや、戦争という状況下では、そう書かざるをえない。英雄が、生み出される。
 戦争のなかの「美しさ」と、美談のなかの「けがらわしいもの」。
 『ダンケルク』は、それを「観客に戦場を体験してもらう」ことによって、伝えようとしています。
 何の面白みもないし、ストーリー性にも欠けるけれど、ほとんどの兵士にとっての戦場って、こういうものなのでしょう。
 ただ、「自分は絶対死なない状況」で、この映画を観て、「本当の戦場なんて、こんなもの」と僕が語るほど、滑稽なこともないのだろうな、とも思うんですよね。
 『ダンケルク』は、「ここまでやっても、本物の戦場とは違う」ということも、浮き彫りにしてくれる作品なのです。
 映画館で、できればIMAXで観ていただきたい。
 この映画、レンタルDVDで、いつでもスマートフォンが手に取れる環境で観ても、たぶん、あんまり面白くないと思うから。


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